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「そうか。そう言えばそうだったな」

「ルナは当然1位でしょうねぇ。私も一度でいいから1位の座を奪ってみたいわ。でも、相手がルナじゃぁ仕方ないわね」

 ジュディアには羨望の眼差しの裏に皮肉の色が隠れているように見えてならない。彼女は容姿にも学業においても絶対の自信を持っているから、負けるのが嫌いなのだ。唯、私に勉強で勝つことだけは半ば諦めているように見える。

 いつも通り取り留めの無い話をしながら、学校に向かって3階から2階に下る階段を歩いていると、一人の天使の男が階下から走り寄って来た。

「あぁぁ!今日はテストの発表だぜ!俺の人生でこれほど不幸なことはねーよ!」

 諦めに満ちた痛々しい声を張り上げている、少し大柄なこの男は友人のセルファスだ。

 彼は、普段は非常に強気で賑やかな面白い奴だが、テストに関連する出来事がある日は一日中こんな感じに落ち込んでいる。

 単刀直入にいうと、彼は勉強嫌いで成績が悪い。

「相変わらず大袈裟だな。本当にそう思うんなら不幸だと思う前に勉強しろよ」

 私は慰める言葉も見つからなかったのでそう言った。

「ルナはちっともわかっちゃいねぇ!俺の心の痛みを!勉強の辛さを、テストの悲しみを!」

「もー……セルファスは勉強になるといつもそれなんだからー!」

 とリバレスは苦笑しながら言った。それに続けて、

「あなたは、少しぐらい懲りて反省すべきね」

 ジュディアは冷たく言い放った。彼女はセルファスに対して少々冷たい気がする。だが……

「おぉ!ジュディアがそう言うんなら反省するぜ!よーし、次のテストはルナに勝つ!」

 呆れるほどの気分の変わりようだ。その原因は、彼がジュディアに気があるからだというのは疑いようも無い。

「まぁ、私に勝つのもいいが今日のテスト発表を乗り越えてからだな」

 私は、少し意地悪げに言った。

「オーマイガッッッ!」

 悲痛な叫びを上げながら、セルファスは私達に続いてトボトボと歩き始める。内心、少し悪いことをしたなと思った。それでもセルファスは立ち直りが早かった。

「ルナ!俺は過去なんて気にしねぇ!前進あるのみだ!次のテストを見てろよ!」

「わかった。楽しみにしとくよ」

 今度は意気揚々と私達の前を歩き始めた。

 だが2階にある学校に入り、テストの結果発表が貼り出されている掲示板に近付くと、彼は後込みした。その様子に気付かず、リバレスは無邪気に宙を舞ってすぐに発表の確認をしに行った。

「みんなの名前見付けたわよー!」

 彼女は小さな体で飛び回り、すぐに全員の名前を見つけた。

 リバレスは天翼獣なので本来は天使学校に入れないのだが、私が願い出て付き添いという形で許可してもらっている。ちなみにリバレスは授業を受けているがテストは受けなくていい。

「ルナはー……やっぱり1位で1000点満点中998点!ジュディアは3位で955点!セルファスは……っと」

 リバレスは言葉に詰まっていた。恐らくかなり悪い点なのだろう。

「リバレス!俺に構わず言ってくれ!」

 セルファスは階段での叫びに似た悲しげな声を上げた。

「セルファス、200人中200位!1000点満点中143点よー!」

 彼は無言ながらも大袈裟にその場に倒れこんだ。

 そして、その暫しの沈黙を一人の秀才が破った。

「ははは、みなさんご機嫌よう。セルファス君は相変わらずですねぇ!」

 満面の笑みを浮かべて嫌味を言う、細身で眼鏡をかけた如何にも勉強家な彼の名はノレッジ。彼の成績は2位で968点だ。

「ノレッジ、てめぇ!普段は大人しいくせに、テスト発表の日だけ強気になりやがって!チキショー!」

 セルファスは逃げるように教室に向かって走り去った。そして、ノレッジは私達に視線を移す。

「普段僕は目立たないんだから、この場くらいはいいでしょう?ルナリート君にはまた完敗ですけど」

 彼は指で眼鏡を押し上げて、わざとらしく秀才に見せようとしている。

 その傍らでジュディアがショックを受けていた。

「私がこんな奴に負けるなんて……。ルナなら許せるけどノレッジは許せない!」

 彼女はノレッジをキッと睨み付け、そう叫んだ。

「こんな奴とは失敬な。僕が君に勝ったのは実力ですよ!じ・つ・り・ょ・く!いずれはルナリート君にも勝ちますけどね」

 ノレッジは睨み返しはせずに、眼鏡を押さえ下向き加減だが自身に満ちた顔で皮肉っぽく言った。

「くっ!覚えてなさいよ!次は絶対に……絶対に負けないから!」

 そう捨て台詞を吐いて、ジュディアも悔しそうに教室の中へと消えていった。

「ルナ、放っといていいのー?」

 リバレスは不安げに言った。

「私が何を言ってもあまり説得力が無いだろ?それに火に油を注ぎかねないしな……。でも、ノレッジ!言い過ぎだ」

 私はノレッジを見据えて言った。

「確かに今回は僕の言い過ぎかもしれませんが、たまにはいいじゃないですか?僕の取り柄はテストなんですから」

 と悪びれた様子もなく反論してきたので、私は仕方なく言った。

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