「これで、ロードも終わりだね」 先刻受けた傷が塞がり、魔剣を携えて近寄るフィアレス!奴は迸る力に包まれ、剣の一振りで今の私を殺せそうだ! 「そうはさせないわ!」 突如叫ぶシェルフィア!私から離れ、精神力を集中している! 「転生して力を得たとはいえ、エファサタンの力に勝てると思ってるの?」 「連続……『滅』!」 数十m程度の小規模な滅が数十箇所に発生し、それが全てフィアレスに炸裂する! 「シュウゥゥ!」 抉られた空間の後には!? 「その力は最早人間の域じゃないね。力を継承したロード、サタンには及ばないけど大したものだ」 殆ど無傷のフィアレスが立っていた!滅を受けた体の表面は一部損傷しているようだが…… 「近寄らないで!」 「パパを傷付けないで!」 二人はフィアレスの行く手を阻むように私の前に立った!このままでは!? 「邪魔だよ」 「ヒュッ!」 フィアレスの剣が二人に襲いかかる! 「キィッー……ン!」 私……俺は痛みも忘れ立ち上がり、フィアレスの剣を瞬時に防いだ。 「俺の大切な人に剣を向けるとはいい度胸だな!」 「さっきよりも力が上がったね!愛を命題に生まれたエファロードの為せる業か」 俺の中から更に力が爆発し、内臓の傷さえ塞がるのを感じた!フィアレスを倒さなければ、人間界は魔の楽園となる!人間は全て殺されるか、そうでなくとも数え切れない犠牲者が出るのは間違い無い。 何より……俺が負ければ、シェルフィア、リルフィを守れない! 「ルナさんっ!私、援護するから安心して戦ってね!」 「パパ!私も応援するっ!」 二人が力強くそう叫ぶと、俺の体に更なる力が漲った!二人の力が転送により注ぎこまれているのだ。 「ああ、絶対に勝つ!」 「絶対か。僕も見縊られたものだね!」 「キキキィィー……ン!」 神の動体視力を以って、辛うじて見える程の高速斬撃!俺達は瞬きすらしないまま、空へと再び舞い上がった! 「この世界をお前に渡す訳にはいかない!」 俺に宿る力と、言葉を剣に乗せて放つ! 「ザシュッ!」 右上から振り下ろされた刃はフィアレスの左頬を裂いた! 「うぐっ!星の統治者は二人も要らない!僕だけで十分だ!」 剣を振り下ろした俺の肩を目掛けて奴が剣を突き立てる! 「ザクッ!」 右肩に剣が刺さり、鈍い痛みが広がる! 「ルナさんっ!」 俺の窮地に、シェルフィアは叫びながらフィアレスに対して究極神術『不動』と『魂砕断』を発動させた! 「ゴゴゴゴ!」 二つの神術がフィアレスを包む!しかし、この程度の神術ならダメージは無いだろう。 これは、奴の隙を作る為だ! 「ブシュッ!」 突き立てられた剣を抜き、俺は間合いを取る。そして! 「始まりの神術『光』!」 「カッ!」 瞬間的に発動させた『光』は通常よりも威力が劣るが、それでも奴を含む空間数百メートルが破壊の光熱に包まれた! 「倒したか?」 刹那の静寂が辺りを包みこむ。そして、消し飛んだ空間を補うように、周りの大気が急速で流れ込んだ。 「今のは危なかった。もう少し、光が強力だったら僕は消えていただろう」 「流石は獄王だな」 フィアレスは、先刻の光を受けた瞬間に自分の体を高密度の闇海で覆っていた。光はそれを貫き、奴の左腕を溶かしたが致命傷にはならなかったようだ。 「はぁ……はぁ……。腕の一本ぐらいはすぐに修復出来るけど、君の妻と娘は厄介だね!」 その言葉の直後、奴は俺の目の前から消えた!一体!? 「キャァァー!」 「ママー!」 この叫び……シェルフィア、リルフィ! 視線の先で、フィアレスの刃がシェルフィアの首筋に突き立てられていた! 「貴様!」 俺は即座に自分を奴の前に転送した! 「ルナさんっ……私は大丈夫!」 首から血を流して苦しそうな顔をしながら、愛する人は俺の目を見つめた。 「この女……サタンのみが使える『闇海』で身を守るとは……。僕の剣を途中で止められたよ」 「黙れ!」 「ガキィィーン!」 俺は抑えられない怒りを込めてフィアレスを弾き飛ばした! 「ママッ!」 すぐにリルフィがシェルフィアに駆け寄る。そして、無意識に『治癒』の神術を使い始めた! 「ママ!わたしが治すからね!」 「うん、ごめんね」 寄りそう母と娘……。俺が世界で一番……自分自身よりも大切な家族。これ以上、傷付ける事は許さない! 「(フィアレス……今こそサタンの終焉の時だ!)」 「(ふんっ……戯言を。歴史から消えるのはロードの末裔ルナリートだ!)」 俺達は空高く舞い上がり、互いに必要な間合いを取った! 俺は愛する者を守る為に。フィアレスは己の信念を貫く為に剣に力を込める! 「キュイイィィ!」 「ゴゴゴゴゴオォォ!」 光を吸収する剣と、闇を吸収する剣……。一振りで目の前の物全てを破壊し尽くす程の力を内包した剣! 「うおぉぉ!」 体の奥底……精神の中枢から力を絞り、剣に注ぎ込む! 「行くぞフィアレス!」 「(キュア……。僕が創る新しい世界を見せる為にも)必ず勝つ!」 「カッ!」 先刻よりも高速で強力な究極の剣撃が放たれる! 「キィィー……ンッ!」 光剣と闇剣は衝突した!その瞬間から目に映る海、空が激しく振動を始める! 先程元の姿に戻ったばかりの海と空は再び消滅を開始したのだ! 「ゴゴゴゴゴ!」 光と闇が、互いを消し去ろうと勢いを強める! 「バチバチッ!」 俺とフィアレスが衝突しているこの空間に流れ込む物質は瞬時に形状を保てずに崩壊していく! 「キキキキィィー!」 俺の剣と奴の剣のエネルギーは同等……。少しでも力負けした方が相手のエネルギーに飲み込まれるだろう! 「グッ!例えこの身が朽ち果てようとも……愛する者を守る為に!」 「グオォォ!僕が創る理想郷で……魔は光を浴びて幸せに暮らすんだ!」 「始まりの神術『光』!」 「終わりの魔術『闇海』!」 『光』、『闇海』の連続使用!それは、自分の生命力、精神力を著しく消耗する! だが、そんな事は関係無い!愛する者を失う事は、死を越える苦しみだと知っているからだ! 「カッ!」 「キュイィィ!」 光剣と闇剣の力が共に増幅する! 血が熱い……。沸騰しているんじゃないだろうか?これ以上力を使えば、肉体が塵になってしまうんじゃないか? 苦しい……。心身共に焼けるような痛みに襲われている。 「ピキキキキィィ!」 尚も力は対等のままだ。1%の優劣も無い!このまま力の放出が続けば、互いに消滅する! その時だった! 「(わたしはエファロードの血を引く者。相対するサタンへ、始まりの神術『光』を!)」 リルフィの心の声!?まさか! 「ピカッ!」 「ブシュッ!」 何が起こった!? 「うわぁぁ!」 木霊する叫び声!フィアレスの声だ! その直後、闇の力は弱まり光が完全に闇を打ち消した! 闇を光が飲み込む瞬間、俺は確かに見た。リルフィが放った鋭い光線がフィアレスの右胸を貫いているのを! | |
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