〜第二楽章『遮断』〜 作戦は全て決まった。此処にいる五人の一人一人を、極術で作った結界で覆う。後は、シェ・ファを待つのみだ。 数秒……、数十秒……、数分。無限に続くかと思われる静寂。こうしていると、さっきまでの出来事が唯の悪夢だったのでは無いかと思えてならない。 だが、これは紛れもなく現実だ。 現れた! 聖域の上空100m程に、何の前触れも無く。 「(シェルフィア、リルフィ愛してるよ。永遠に。)」 私は二人を振り返らず、意識を転送する。その直後、私とフィアレスは無意識に飛び立っていた。 三人が状況を理解出来ず、戸惑っている。彼女達の叫びが遠くに聞こえる。だが、私達は戻れない。『作戦』は始まってしまったからだ。 作戦、それは「無意識と反射のみで戦う事」だ。予めシェ・ファの動きをイメージしておき、そのイメージに近い動きだったら無意識レベルに記憶させた攻撃を行う。イメージから離れた動きだったら、反射のみで戦うのだ。 無意識レベルに記憶させた攻撃の例としては、 シェ・ファが一人に対して物理的な攻撃を仕掛けた場合、仕掛けられた一人はギリギリで交わし、残りの一人が死角から物理攻撃を行う。 などがあり、数千のパターンを私とフィアレスは記憶している。解り易く言えば、現在の私とフィアレスは、『無意識の記憶』によってコントロールされる操り人形だ。 反射は、単純な動作だ。最優先で、シェルフィアとリルフィ、キュアを守り、その次に自分の身を守る。隙があれば攻撃する。 シェ・ファは心を読むし、動作も超高速だ。だから、私達の考えた対策はそれしか無かったのだ。 最初にシェ・ファの姿を認識したら、二秒後に意識を消して彼女に近付く。半径10mに到達時点で、極術「遮断」を発動する。 「ルナさん待って、お願い!」 「パパ、ダメー!」 「フィアレス様ぁぁ!」 三人が、私達を追って来ていた。 「またな」 「またね」 私とフィアレスは彼女達に微笑んだ。次に彼女達の声を聞けるのは……、新しい命で巡り会った時だ。 「キンッ!」 剣を交叉させ、極術を発動させる。これが彼女達の見る、私達の最後の姿になるだろう。 「ゴゴゴ」 音と周りの景色が消えた。代わりに現れたのは、上が雲一つ無い晴天、下が星々の浮かぶ闇の海という異空間だ。 極術、『遮断』は、現在の世界から隔絶された空間を創りだし閉じ込める。閉じ込められた者は、自力では脱出不可能だ。脱出可能なケースは二つ。一つは、私とフィアレスが『接続』の極術を使い『遮断』を解除する場合。もう一つは、私達が二人とも死んだ場合だ。 私とフィアレスに、『接続』を使用する記憶は無い。だから、この空間が消えるのは後者でしかあり得ない。 「極術で自分達ごと私を閉じ込めるとは、考えましたね。いいえ、考えた通り無意識に動きましたね」 白いローブを、ふわふわ靡かせ感情の籠らない声が響く。相変わらず鋭い洞察だ。 「心が読め、物理攻撃、神術、魔術による攻撃が無効だという貴重な情報を寄越したのはお前だからな」 私の言葉に動じる様子は無い。閉じた瞳は閉じたままで、ピクリとも動かない。 「そうですね。しかし、敢えてもう一度言います。何をしても無駄です。もし私が、この異空間の破壊に注力すれば、28秒で破壊可能です」 破壊可能という事は、すぐには脱出不可能と暗に示している。十分だ、28秒も隙は与えない。予定通り戦うのみ! | |
目次 | 続き |