「えっ!?ここは?」 「レニーの森だよ。周りをよく見てみてよ!」 そう言われて、彼女は驚きながら周囲を見渡した。確かに父母と何度か来た事のあるレニーの森だった。しかし……この場所はフィグリルから遠過ぎる。リルフィは、地理の本も読んでいたからこの場所の位置を知っていた。 「ウィッシュ!ダメよ!ここは遠い場所だからパパとママに怒られちゃうわ。それに5時までに帰れないよ!」 彼女は首を振りながら動転して大きな声を出した。 「リルフィ、この森には月夜の光で花を咲かせる『ルナ草』があるんだ。10年前、レニーの街と森は魔の攻撃で壊滅状態になっていたけど、天界が人間界と融合した時に天使が多くこの街に移り住んで、見事に復興した。その時に、たまたまルナ草もこの森に生息するようになったんだよ」 ルナ草。リルフィはその名前を知っていた。父親と同じ名前を持つこの植物は、かつて父が育て魂が宿り、先代神との戦いで活躍したという事を。 「ルナ草を持って帰ったら、きっとリルフィのお父さんが喜んでくれるよ!」 確かに、持って帰ったら間違いなく喜んでくれるだろう。でも、ルナ草は月の光を受けて白い花を咲かせる。月の光を受けるには、夜が来るのを待たなければいけない。今は夏なので、夜が訪れるのは遅い。リルフィはそれが心配だった。 「でも、時間が」 「大丈夫だよ、花は咲いていなくても図鑑で見た事があるから時間内に探せるよ!」 「……うん、そうね!じゃあ頑張って探しましょ!」 という訳で二人は森の中を冒険する事になった。レニーの森は作物が多く取れて、それを育てる人間や天使も多い。だがそれは森の入り口の方だけで、奥に進むと人影は無くなる。それでも、ルナ草は森の奥地にしか生息していないので二人は懸命に探した。ウィッシュは冒険が好きだ。しかも、隣には自分が好意を抱く女の子がいる。彼は意気揚々と森の奥へ奥へと歩を進めた。 「なかなか見つからないね」 「大丈夫だよ!もっと進めば絶対見つかるから」 森を進むにつれて、辺りは暗くなる。陽が落ちてきている所為もあるが、森を覆う木々の密度が上がっているからだ。ウィッシュも少し不安になり、落ちていた木の棒を手に取りそれを剣のように構えた。その手とは逆の手はリルフィの手をしっかりと握り絞めている。 「ガサッ」 突如草むらから音がする!ウィッシュはすぐに棒を構えて、リルフィの前に出た!何があっても彼女を守る為だ。二人の心拍数はピークまで上がった!……しかし、小さな鼠が通り過ぎただけだった。二人は安堵の溜息をついた。 「ふぅ……びっくりしたぁ」 「ウィッシュ、守ってくれてありがとう!でも、そろそろ時間が……時計は持ってないの?」 「ぼくは持ってないね。リルフィも?」 「うん……どうしよう……時間がわからない」 「多分まだ大丈夫だよ、もう少し探したら帰ろう!」 「うん……わかった」 この時、時刻は既に5時を過ぎていた。だが、森は常に薄暗く所々に灯りが設置されていたので時間の変化を感じにくい状態だった。灯りは、森の中で人が踏み込んだ領域までは所々に設置されている。 だが、更に歩くとついに灯りさえも途絶えた。そう、人が踏み込まない領域まで辿り着いたのだ。 「ウィッシュ!暗いわ。何も見えない!」 「大丈夫……ぼくがいるから!ほら、向こうに灯りが見えるよ!」 半ば強引にウィッシュはリルフィの手を引っ張った。リルフィは、涙を浮かべながらも懸命に走る。すると…… | |
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