【第四節 約束の時】

 

「う……うぅん」

 フィグリル城にある豪華な寝室で眠り続けていたシェルフィアが、突然声を漏らした!

「シェルフィア!いや、フィーネ!?」

 私は彼女が倒れてから3日間、一睡もせずに手を取り続けていた。

「……ルナ、さん」

 やつれた顔で微笑む。姿は違えど、その優しい目は間違いなくフィーネだと確信した!

「フィーネ!」

 私は涙が溢れて止まらなかった!そして、強く強く抱き締めた!

「……不思議な気持ちです。私の心の中には、フィーネだった自分とシェルフィアとしての私が同居しているんです」

 シェルフィアは、フィーネの心を取り戻したがシェルフィアでもあるという事か!?

「記憶……ううん、心は戻ったんじゃないのー!?」

 そこで、リバレスが声をかけた。リバレスもまた、シェルフィアを心配してずっと傍についていたのだ。

「……とても切なく……悲しい……そして、強い心の半分は私と共にあります。フィーネの想いが痛い程に」

 そこで、シェルフィアは一筋の涙を流した。金色の美しい髪を揺らしながら……その姿はやはりフィーネを連想させる。

「私は、フィーネと約束をした。永遠の約束を……それを、フィーネは守ってくれている。でも、君はシェルフィア、フィーネの代わりじゃないんだ。それもわかる!でも!」

 そうなんだ。フィーネが転生してシェルフィアになった。でも、心は二人のもの……私はどうすれば!

「……ルナさん、そんな顔しないで下さい……フィーネとしての私が大好きだったルナさん、シェルフィアとしての私が出会ったルナさんはもっと優しい顔ですよ。心配はいりません。これは、私の心の問題だから」

 シェルフィアはそう言うと、私の頭を優しく撫でた……まるで、母親が子供をあやすように……

 私は泣いていた。まるで幼子のように……私が愛するフィーネはここにいるんだ。シェルフィアと共に……

「……思い出して下さい……私が『心』を失いかけたとしたら何処へ行くのか?」

 シェルフィアは囁いた。優しい無垢な瞳で……私はその中にフィーネと同じ強さを見つけた!

「そうだ!すまない。君の心を一つに出来る場所があるんだ。……行こう!」

 私は涙を拭って立ち上がった。200年前の約束を……今こそ果たす時が来た!

 200年前に約束を交わし……魂の再会場所と決めた丘……

 私達が初めて出会い……200年前には帰れなかった丘……

 

「雪の降るミルドの丘へ!」

 

 私とシェルフィアは同時に叫んだ!今からそこへ向かう。転送の神術で!私は兄さんとリバレスを置いて、シェルフィアと共に城のテラスに立った。S.U.Nが地平線に沈もうとしている。その夕陽を浴びた城下町……石と金属で造られた世界は何故かとても力強く見えた。ミルドは……今はどうなっているんだろう?変わっているんだろうか。丘は無事だろうか?

「ルナさん、連れて行ってください。私は、何が現れても受け入れます!」

 シェルフィアは力強く微笑んだ。心のままに受け入れる決心が出来たのだろう。

「ああ。必ず君の心は戻る。いや、一つになるから!私を信じていてくれ」

 私はそう言うと、シェルフィアを抱きかかえた。そして意識を集中する!

 

『転送!』

 

 私達の体はフィグリルから消え去った!瞬時に景色が塗り替えられていく!私達は目を閉じて……固く手を結んでいた。

 

 

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