【第二節 近くて遠い過去と現在】 転送の神術を発動させ、向かった先はフィグリルの神殿の屋上だった。沢山の思い出が残る場所だ。しかし! 「うわー。ずいぶん変わっちゃったわねー!」 リバレスが目を丸くして叫ぶ!無理もない。200年前とは何もかもが違うからだ。 「白亜の美しいフィグリルは……面影も無いな」 時刻は午後5時。空はまるで血のような赤に染まっている。その光が照らす街、フィグリルは不気味に輝いているのだ。 外壁は黒色の金属に覆われて、それらの周りは有刺鉄線が巡らされ、見張り台には360度見渡せるように多くの兵が常駐している。また、街を見下ろすと武装した兵がほとんどで一般人の姿は見えない。兵は、剣でも槍でもない妙な『筒』のような武器を携えている。人間が変わった以上に街も大きく変わっている。街の敷地面積が数倍の規模になり、レンガと金属で作られた小さな家がびっしりと画一的に立ち並ぶ。おそらく人口が増大したんだろう。だが、何より驚いたのが街の中心部にある巨大な城だった。周りを数10mの堀で囲まれ、直径400m、高さは100m近くあるだろうか。一際大きなその城は、夕陽を背に受け堂々と構えているのだ。 「変わってないのは神殿だけねー……あっ!?」 彼女はそう呟いた直後に何かを見つけたようだ。 「手紙か。兄さんからだ!」 兄さんは、私が目覚めたらここに来るとわかっていたんだろう。しかし手紙の色は変色しており、年月の経過を示している。 「一体あれから何年経ったのかしらねー?」 私は不安になった。私は、確かに200年で目覚めるように眠ったはずなのに! 「とにかく読んでみよう!」 私は、手紙の封を急いで切った。 「最愛の弟ルナへ まずこの手紙を書いたのは、お前が眠ってから190年後に書いたものだ。安心してくれ。この手紙をここに残したのには理由がある。それは、この手紙が無いとお前は俺に会えないからだ。現在人間界は魔に脅かされるだけでなく、人間どうしの争いも起こって混沌としている。しかし、俺一人の力では、全ての平和的解決は出来ない。もうすぐ恐ろしい『計画』が実行されるというのに!これを見たら、急いで城まで来てくれ!だが、城は兵で固めているから部外者は誰も入れない。空にも俺の結界が張られている。だから、お前の為に地下水路を作った。この地下水路を使えば容易に入る事が出来る。詳しくは地図を見てくれ。話したい事は山ほどある。一刻も早くルナの力が必要なんだ! 兄であるハルメスより」 これを読み終えた瞬間、私は手紙を握り締めて走り出した。急がなければ……何か、とても悪い事が起きそうな気がする!混沌とした世界……そして『計画』! 「ルナー!もー……待ってよー!」 指輪に変化したリバレスと共に夕闇に染まる城への坂を全速力で駆けていく。通行人や兵には、さぞ怪しい人物に見えた事だろう。 「止まれ!止まらなければ撃つぞ!」 坂の上に数十人の兵……彼らは、全員白の戦闘服を着ている。恐らく、兄さんのデザインだろうがそんな事は関係ない。 兵達は、一斉に筒のような物を私に向けて『撃つぞ』と脅してくるのだ。 「私は、『ハルメスさん』の知人だ!どいてくれ!」 私は、そう叫びながらも走るのをやめなかった。すると! 「ドンッ……ドンドンッ!」 筒が火を噴いて、金属の破片が私をめがけて飛んできたのだ! 「キンキンッ!」 思わず剣を抜き、金属片を弾き飛ばす。しかし、それでも破片の幾つかは私に命中した!皮膚を軽く抓まれた程度の痛み……後で聞いた話だが、これは『銃』という武器。低級魔となら、十分に戦えるほどの武器らしい。 「私は敵じゃない!やめるんだ!」 私は、兵を『衝撃』の神術で弾き飛ばした。最低まで威力をセーブしたつもりが、全員が数10m遠くまで飛んでいってしまった。 「(ルナー、やりすぎよー!)」 リバレスから注意を受ける。しかし…… 「(あれで限界まで力を抑えたんだよ!制御されない力っていうのも問題だな)」 その後は、地図の通り水路まで辿り着いた。入り口は、神術で封印が施されていたので解除する。中は暗い迷宮のようだ…… | |
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