【第十四節 無音の狂奏曲】 「キラキラ」 宿の窓から降り注ぐ、S.U.Nの光とそれを反射する雪の輝きが眩しくて私は目を覚ました。 「フィーネ」 穏やかな笑顔を浮かべて、隣で眠る最愛の人の髪を、私は優しく撫でた。 「ルナさん、おはようございます」 薄っすら目を開けて、フィーネは私の背中に手を回して抱きついた。吐息が私の首にかかる。 「おはよう、フィーネ」 私もフィーネを抱き締めて、キスを交わした。昨夜の余韻に浸るように…… それから、しばらくの時が流れて私はふとベッドの机の上に置いた時計を見た。すると…… 「フィーネ!もう12時だ!」 神殿を離れてから、既に8時間以上が経っている。心配されているかもしれない! 「12時!昼のですよね!?」 私達は、急いで旅の服に着替えて、支度を済ませて宿を出た。 「うわぁ……一面、真っ白ですね!」 宿を出た私達の目に飛び込んできたのは、白亜の街に雪が降り積もり、何もかもが純白に染まっている光景だった。 「私も、こんな光景を見るのは生まれて初めてだよ」 天界に雪は降らない。私は、初めての銀世界に感動していた。そして、この光景は私達を祝福しているかのように見えた。 「ルナさん」 フィーネは白い息を吐き、私の手を握り締めた。そして、彼女の頬は薄紅色に染まっている。 「ん?フィーネ、どうしたんだ?」 私も手を握り返し、神殿へと歩く中で私はそう聞き返した。 「……昨日の事……私、一生忘れませんよ。ううん、生まれ変わっても絶対に」 フィーネは、私の目を見つめた。お互いの頬がどんどん朱に染まる。 「ああ、私も絶対に忘れないよ……これからも、ずっと仲良くやっていこうな」 私は、人目も気にせずフィーネの体を抱き締めて優しく持ち上げた。 「ルナさんっ!……大好きです!」 顔を真っ赤にしながらも、フィーネは満面の笑みでそう言った。 「私も、フィーネが大好きだよ。よし!このまま神殿まで走るか!」 私はそう言って、フィーネを抱えて神殿まで走った。このまま、未来を二人で走りたかったからだ。 そう……私達は幸せだった。誰よりも……何よりも…… 〜第一楽章『氷の歯車』〜 私達が、神殿の前まで着くと、怒ったリバレスと呆れたハルメスさんに囲まれた。 「おいおい……恋の逃避行かと思ったぜ!」 ハルメスさんが私の肩を叩く。何も言い返せずに、私は頭を下げるしかなかった。 「ルナとフィーネの馬鹿!心配したんだからー!」 リバレスが、私を何度も叩く。怒られても仕方ない。 「リバレス(さん)、ハルメスさん。すみませんでした!」 私とフィーネは同時に深く謝った。これからは、愛し合っているとはいえ勝手な行動は慎もう…… その後、私達は昼食を取った後に神官の部屋に集合した。今後の作戦を決める為だ。 「さぁ、始めよう。作戦は大体決まっている」 ハルメスさんが、神官の椅子に座る。そして、その一番近くに私が……続いて、フィーネとリバレスが座った。 「どんな作戦ですか?」 私は率直に訊いた。ハルメスさんの事だから、きっと凄い作戦なのだろう。 「……最近、そうだな。つい二ヶ月程前に『輝水晶の遺跡』という遺跡が、南南西およそ100kmの地点に発見された。この遺跡は、リウォルタワーよりももっと昔……人間界が中界だった頃の遺跡だ。俺は行ったことが無いが、派遣した兵が持ち帰った『記念碑の破片』の文字を解読すると……『獄界への道……封印』と書かれてあったんだ。獄界の道とはこの世界で言う『死者の口』の事だ」 ハルメスさんは、真剣な眼差しで私を見据えた。私の答えは決まっている。 「……少しでも可能性があるのなら、行きましょう。もし……獄界への道を封印出来れば、魔は現れないでしょう」 私はそう言って、フィーネとリバレスに目を合わせる。二人は、迷う事無く頷いた。 「お前ならそう言うと信じてたぜ!俺も行きたいんだがな……結界が消えると、この街は即座に魔の餌食になる。この街の武力を強化しない限り、俺はこの街を離れられないんだ。これを見てくれ」 そう言って、ハルメスさんは私にナイフを渡した。これは! 「オリハルコン!?どこで手に入れたんですか!」 私は驚きの余りそう叫んだ。オリハルコンは天界でしか創れない金属なのに…… 「これは、レプリカだぜ。リウォルタワーから取ってきた本物を真似て俺が創ったんだ。これが完成したら、人間でも魔と戦える。もし、フィーネさんを連れて行く気なら持たせてやってくれ」 私は、オリハルコンのナイフを受け取った。そして、フィーネの目を見た。 「私は、ルナさんが行くんなら何処にでもついて行きますよ!絶対守ってくれるって信じてますから!」 そう言って、フィーネはナイフを取った。確かに、フィーネの精神力があれば強い武器になるかもしれない。
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