〜1000年前の出来事〜 時は遡り、1028年前……私が798歳の時の話だ…… 今日も、僕は朝の8時に起きた。ここは、天界の孤児院。僕は生まれた時から、両親がいなかったのでずっとここで育っている。でも、寂しくなんかはない。だって、ハルメス兄ちゃんがいるから。兄ちゃんも孤児院で育って、年は2619歳。僕より、1821歳も年上なんだ。兄ちゃんは1000歳の時から学校に行っていて、トップの成績を取っているらしいけど、僕にはそんな事関係ない。学校が終わって、兄ちゃんが孤児院に来てくれる事が何よりの楽しみだから。兄ちゃんは、優等生宿舎が与えられてるらしいけど毎日孤児院に帰ってきてくれる。でも、兄ちゃんが帰って来るのは夜だから、僕は遊びに行く事にしたんだ。 「ルナッ!」 僕が、孤児院を出て噴水広場に来た時だった。この前友達になったジュディアに声をかけられた。 「ジュディア!一緒に遊ぼうよ」 ジュディアは、ちょっと年上の916歳。可愛くて、賢くて僕のお姉さんみたいだ。 「うん!そう思って、ここに来たの!」 顔一杯の笑顔で、ジュディアは微笑んだ。ジュディアには、お父さんもお母さんもいて羨ましいけど、ハルメス兄ちゃん以外で、僕と初めて友達になってくれた天使なんだ。こうして僕達は遊ぶ事になって、子供の遊び場の森まで歩いた。それで、何をして遊ぼうか考えてると、突然意地悪そうな男の子に声をかけられたんだ。 「何だ、お前男のくせに女と遊んでやがる!アハハハッ!」 「ハハハッ!そうですよねぇ、セルファス君!」 年の割にちょっと大柄な男の子、そしてそれに付き添う眼鏡をかけた細身の男の子……彼らが、後に友人となるセルファスとノレッジだった。 「何よっ!私がルナと遊ぶのがそんなにいけないことなの!?」 そこで、僕の事を守ろうとジュディアが強気にその二人の前に立ち塞がったんだ。 「おう!お前も女なら、他の女の子と遊べよ!俺は後ろの男に用があるんだ!どけ!」 セルファスっていう男の子が乱暴に、友達のジュディアを手で押しのけた。 「キャッ!ルナ、逃げて!」 押しのけられて転んだジュディアが、僕を逃がそうと叫ぶ。でも、僕は何もしてないジュディアが傷付けられるのが許せなかった。 「喧嘩はやめて仲良くしようよ!」 僕が叫んだのにも関わらず、僕はセルファスとノレッジに囲まれた。 「男のくせにだらしない事ばっかり言いやがって!その根性叩きなおしてやるぜ!」 そう叫んで、二人は僕に殴りかかった。でも、 「僕はみんなと仲良くしたいんだよ!」 僕は二人の拳を指一本で止めていた。僕は、みんなと違って凄い力があるんだ。それで、みんな僕を恐がって友達になってくれない。唯一友達になってくれたジュディアも、お父さんが『命を司る間』の司官で、お母さんが『神術を司る間』の司官。両親が強い権力を持ってるから、他の子供達の両親も恐がってジュディアと遊ばせなかった。だから、家を出たら一人ぼっちの僕達が友達になったんだ。 「お前……強いな!友達になろうぜ!」 「セルファス君!……まぁ、セルファス君が言うんなら友達になりましょう」 僕はこの二人も逃げると思ってた。でも、友達になってくれるって言ってくれた! 「うん!友達になろう!でも、その前にジュディアに謝ってからだよ」 僕がこう言って、二人はジュディアに何度も謝った。それで、僕達は仲良しになったんだ。セルファスは838歳、ノレッジは700歳みたい。もちろんその事は、帰ってきたハルメス兄ちゃんにすぐ伝えたよ。 「ハルメス兄ちゃん、僕今日友達が二人も増えたんだ!」 僕は兄ちゃんにニコッと笑いながら言った。 「おぉ!ルナ、それは良かったなぁ!」 兄ちゃんも自分の事のように喜んでくれて、僕の頭を撫でてくれた。 「兄ちゃん、学校は大変なの?」 僕はちょっと疲れている兄ちゃんの顔を見てそう訊いた。 「そうだなぁ、勉強は難しくないんだけど、俺は自由を奪う教えは間違ってると思うんだ」 兄ちゃんは、いつもの通り僕に自由の在り方について教えてくれた。僕はそんな兄ちゃんの考え方が好きだ。 「ルナ、でもこんな事を他の天使に言っちゃダメだぞ!恐い神官に捕まるからな!この本は、俺が書いた本だけどお前にやるよ」 僕は、この時兄ちゃんの書いた『自由と存在』っていう難しい本を貰った。内容は、今はわからないけどとっても嬉しかったよ。 「ありがとう、兄ちゃん!一生大事にする!」 僕は、そう言って兄ちゃんに抱きついたんだ。 「大袈裟だって!それはそうと、友達が増えて良かったなぁ!」 兄ちゃんは照れてたけど、嬉しそうだった。 僕はそれからしばらく経った日に友達を連れてきた。すると、兄ちゃんはとても喜んでくれたよね。兄ちゃんは、ジュディアにもセルファスにもノレッジにも慕われてた……僕だけの兄ちゃんじゃ無くなった気がしたけど、そんな日々が楽しかったんだ。 あるレッドムーンの日…… 今日は、大人達が外に出ない不吉なレッドムーンの日。でも、唯一僕達みたいな子供が夜に外へ出ても、バレずに遊べる日なんだ。もちろん、言い出したのはセルファス。彼は昔からレッドムーンの日に遊んでたらしい。それでも、僕達は1000歳になったら学校に行って、この世界の法律に従わなければいけない。1000歳を過ぎて、レッドムーンの日に外出したら捕まって死刑になるんだよ。僕達は、夜の12時に噴水前に集まった。見つかったら怒られるっていうスリルが凄かった。 「よーし!集まったな!出発だ!」 っていうセルファスの掛け声と共に、僕達4人は森に向かって空を飛んだ。外出するだけでも禁止されてるのに、こんな夜中に飛び回っている事が知れたらどうなるか……でも、何事もなく森に着いたんだ。 「セルファス、何をして遊ぶの?」 ジュディアが、真っ先にセルファスに訊いた。彼は今では僕らのリーダー格みたいだ。 「うーん……せっかく大人達もいないし、『術比べ』をしようぜ!」 『術比べ』っていうのは、公園の外れにある恐い姿をした『魔』の彫像に、『神術』をぶつけるっていう遊びなんだ。 「でも、僕は『神術』なんて使った事がないよ?」 僕はセルファスに訊き返した。神術っていうのは学校に行って習うものだから、子供は知らないはずなんだけど。 「ルナリート君。神術は、精神力を集中して『結果』をイメージするものなんです。例えば、炎の初級神術である『焦熱』を使う場合は、集中して頭の中に炎を思い浮かべて、それを対象にぶつけるイメージと共に『flame』って術式を描くんです」 と、ノレッジは得意げに語った。 「ノレッジは物知りだなぁ……僕は、そんな事全然知らなかったよ!みんなは、神術を使えるの?」 僕は、ちょっとワクワクしながらみんなに聞いたんだ。 「おう!俺は、初級神術の『落雷』を使えるぜ!」 セルファスは自信満々で、自分の鼻をこする。 「私は、『氷結』の神術を使えるわよ!」 ジュディアも使えるんだ。名前からして、氷の神術だろうな。 「ふふん、僕は『衝撃』と『焦熱』の神術を使えますよ!」 ノレッジは、嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言った。 その後、術比べが始まった。セルファスの『落雷』は、魔の像から外れて地面を削った。でも、地面が20cmぐらい抉れてたよ。ノレッジの『衝撃』は像に命中したけど、「コーンッ」ていう軽い音がしただけだった。『焦熱』は、空中に5cmぐらいの火の玉が出てきてびっくりしたなぁ……その後の、ジュディアの『氷結』。これは凄かったよ!流石にお母さんが『神術を司る間』の司官なだけあって、その術は芸術的なぐらい完璧だった。何せ、高さ2mもある像の全体に同じ厚さの氷を張ったんだ!台座には、1mmの氷も張らずに!これには、みんな呆然と見とれるしか無かったよ。きっと、ジュディアは将来天界で一番の『氷使い』になるんじゃないかな? その後、僕の番がやってきた。生まれて初めて使う神術……大丈夫かな?僕は、頭の中に炎を浮かべてみる。すると、何だか不思議な感覚に襲われたんだ!頭の中の炎は、初めは蝋燭の火ぐらいの大きさだったんだけど、目の前まで真っ赤になるくらいの凄い炎になった。その後に、像にぶつけるイメージを作ると、勝手に術式が浮かんできたんだ。『deadly flame』その式が浮かんだ瞬間だった! 「ゴォォ!」 直径2mぐらいの火の渦が、魔の像に直撃したんだ! 「ルナ!それは、高等神術の『滅炎』よ!」 その後は、みんなびっくりして黙ってた。何で僕は、いつもこうなんだろう。普通の天使に生まれたかったな……そう思って僕が涙を浮かべてると、ジュディアが叫んだ。 「もう!ちょっとルナが凄かったからって!私だって、もう少し大人になったら高等神術ぐらい使うんだから!」 僕の事を思ってかな?それとも、神術で僕に負けたのが悔しかったのかな?どっちかわからないけど、ありがとう。 「そうですよね!僕だって、大人になったら神術を極めますよ!」 その言葉にノレッジが便乗した。すると、ジュディアは不敵な笑みを浮かべたんだ。 「私は、ルナにもノレッジにもセルファスにも負けないもん!……それはそうとセルファス、何か別の遊びは無いの?」 ジュディアが再びセルファスに訊いた。ジュディアに目を見つめられたセルファスは何だか顔が赤い。 「そうだなぁ……ノレッジ!何かいい案は無いか!?(ジュディアが喜びそうな)」 何故か、セルファスはノレッジにヒソヒソ声で訊いていた。 「そんな事言われましてもねぇ……ルナリート君はどうですか?」 困ったノレッジは僕に振ってきた。僕は、一つやりたい事があったので即答する。 「僕は、『かくれんぼ』がしたい」 そう言うと、みんな納得してくれてかくれんぼが始まったんだ。大きな木の穴に隠れたり、石の陰に隠れたり……セルファスなんか、地面に穴を掘って隠れてたからびっくりしたよ。ノレッジは、空を飛んで木のてっぺんに隠れてたから最後までわからなかったなぁ……僕とジュディアは同じ所に隠れたりしてたから、すぐ見つかったよ。楽しい時間はすぐに過ぎて、夜中の4時くらいになった。早く帰らないと、早起きの人に見つかってしまうんだ。 「急ぎましょう!」 それに気付いたノレッジが真っ先に、翼を広げたよ。それに続いて、僕達も『神殿』に向かって飛んでいく……何だか、少し空が明るくなって来た時は焦った。でも、何とか誰にも見つからずに、神殿の2階の民間天使居住区まで辿りついた。居住区の中央で僕達は翼をたたんで別れたんだけど、セルファスとノレッジとジュディアは同じ方向で、僕は孤児院だから逆の方向なのが寂しかったな。そうして、僕はゆっくりと一人で歩いてた。すると、三階へ続く階段の上から大きな声がしたんだ。 「……ですから……というんです!?」 ハルメス兄ちゃんの声だった!誰かと言い争ってる!?僕は息を殺して、忍び足で階段を上がっていった。 「貴方は、成績が最優秀でありながら……学校の教えが気に入らないと言うのですか!?」 もう一つの声は、神官ハーツ様の声だった!この天界で最高の権力を持つ! 「私は、神の存在を否定しているのではありません!唯……厳しい戒律と、思想の画一化を推し進める、『貴方が作った学校の教え』が間違っていると言っているんです!」 兄ちゃんは、神官に反抗している!?言葉の意味はわからないけど、神官に反抗したら捕まるんじゃないの!? 「いい度胸ですね。私にそこまで歯向かうとは!そうです!あの教えは全て私が作ったもの……そう、戒律も!それを知った貴方は……どうなるかわかっていますね!?……数時間後にハルメス、貴方は捕らえられます!せいぜい、余生を楽しむことだ」 そう言って、神官は去っていった。僕は、すぐに兄ちゃんの元に駆け寄る! 「兄ちゃん!?どうしたの!」 僕は、青褪めた顔をしているハルメス兄ちゃんに泣きついた。 「ルナ!最後にお前に会えて良かった。俺はいなくなるんだ。多分……帰ってこれない」 兄ちゃんは意味深な言葉を言った。でもそれが悲しい事なのはわかる。 「ハルメス兄ちゃん!何処にも行かないでよ!僕には兄ちゃんが必要なんだ!お願いだよぉぉ!」 僕は、必死で兄ちゃんに抱きついた。すると、兄ちゃんは僕の頭を撫でる。 「よく聞け……ルナ。俺は明日からもういない。でも、俺はちっとも悲しくない。それはルナ、お前がいるからだ。お前が大人になって……この世界を変えてくれるって俺は信じてる」 兄ちゃんは、泣き続ける僕を慰めようと、ポケットからある物を取り出した。 「ルナ、これは、俺の宝物だけどお前にやる。だから泣くな!」 そう言って僕にくれたのは、『銀の懐中時計』だった。でも、僕はそれよりも兄ちゃんが大事なんだ! 「やだよ!時計は要らないから!兄ちゃん!兄ちゃん!?」 ハルメス兄ちゃんは、僕の制止を振り切って部屋の中に入った!兄ちゃんの目には涙が溢れてた…… 「ルナ!俺は、お前を本当の弟みたいに思ってる!後はお前に任せるからな!」 それが、僕の聞いたハルメス兄ちゃんの最後の言葉だった。 その後、神官の兵隊が来て兄ちゃんは連れて行かれた。 兄ちゃんは裁判にかけられたけど、僕はそれを見る事も許されなかった。 後で大人の人に聞いたら、兄ちゃんはほとんどの力を消されて遠い所に行ったと聞いた。 僕は、兄ちゃんの本を毎日のように読んだ。さらに、あらゆる知識を吸収した。 そして、学校に入り兄ちゃんと同じ矛盾を感じたのだ。 『僕』は成長して……『私』になった。 私は、貴方の遺志を継いで……天界を変えたんです。 でも、貴方は生きていてくれた。 今度は……どんな指針を私にくれるのですか……
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