【第十三節 永遠の約束】 翌日……夕陽に海が染まる頃、フィグリルの街の港が見えた。時刻は午後5時くらいだ。遠目に見るその街は、建物が全て白亜の壁で出来ている美しい街だ。大きさも、リウォルの街と並ぶ程の規模らしい。この街の特色は、交易が盛んな事にある。リウォルにも珍しい品々が集まっていたが、それ以上にフィグリルは世界中のあらゆる品が揃うらしい。そして、もう一つの特色が……今回の目的でもあるのだが、人間を救っているという神官がいる事だ。 「あっ、港が見えてきましたね!私もフィグリルの街に来るのは初めてなんですよ!」 フィーネが甲板の手摺につかまって、身を乗り出しながらそう言った。 「おいおい、あんまり身を乗り出したら危ないぞ」 そう言いながら、私も一緒に身を乗り出していたのだが…… 「真っ白で綺麗な街ですね」 フィーネは、感嘆の溜息を漏らしながらさらに身を前に出した。すると! 「キャッ!」 「危ない!」 フィーネが手摺から海に落ちそうになった所を、私は片手でギリギリ捕まえた。 「……相変わらず、フィーネは向こう見ずなんだから。しっかりしてくれよ!」 「(フィーネらしいけどねー!)」 私達二人に同時に責められて、フィーネは甲板の上で一人落ち込んでいた。 「ごめんなさい……反省してます」 私は、怒ってはいなかったのだが、フィーネが余りにも悲しそうな顔をするので慰められずにはいられなかった。 「大丈夫だって。誰だって失敗ぐらいするよ。特にリバレスと比べたら、フィーネはまだまだ大丈夫だ」 私がそう言った瞬間だった。 「痛い……痛い!」 指輪に変化していたリバレスがさらに小さく縮んで、指を締め付けたのだ! 「(誰が、いつ失敗したのよー!)」 リバレスが怒る表情が脳裏に浮かんだ。それより、痛い! 「ごめん、ごめん!私が悪かった!」 私は指輪のリバレスに叫んだ。痛くて、思わず指輪のリバレスを叩く…… 「ふふふ……相変わらず、仲がいいですね。何だか羨ましいです」 フィーネは、この光景を見て微笑んだ。良かった、笑顔に戻って……でも! 「リバレス、本気で痛いから!」 そんなやりとりが続いていると、船はいつの間にか港に停泊していた。船員に呼びかけられて、私達は急いで下りた。 「ここがフィグリルの街か……え!?」 港から、街への入り口に入ろうとして私はある事に気付いた! 「どうかしたんですか?」 フィーネが首を傾げて、私に尋ねた。それもそうだ、気付く筈が無い。 「(これはどう見ても、結界よねー)」 そうだった。これは結界だ。街の入り口のアーチから下……いや、地面から結界が張られている。違う!街全体が結界に覆われているのだ!街の直径は軽く4kmはあるだろう。その全てが結界に包まれているのだ!途方も無い力だ! 「フィーネ、この街は魔物に襲われたりしないだろう?」 私は驚きを隠せず、私の目が正しいかどうか確認する為にそう訊いた。 「はい、フィグリルの街は世界一安全だって聞きますから……それがどうしたんですか?」 やはりそうだった。この結界は、魔を通さないようにする為の強力な結界。こんな結界を張れるのは…… 「この街には、強大な力を持った天使がいる。噂の神官がそうかもしれない」 私は、天使がいるという推測……いや確信をフィーネに語った。救いをもたらす神官が天使?それにしては、こんなに強力な力を持って堕天したという天使を、私は聞いた事がない。それよりも、今現在……人間界にいる天使は私だけなのに……頭ではそう思っても、この結界を見ると天使の仕業としか思えなかった。 「それなら、早く会いに行きましょう!きっと、私達の事を助けてくれますよ!」 フィーネは結界を越えて走っていった。全く……その癖は直らないんだな。私は溜息をついてフィーネを追いかける。 辺りはすっかり暗くなって、街には街灯が灯っていた。走る地面は整然と舗装されており、天界のそれを彷彿とさせた。また、街灯に照らされる白亜の家々は、まるで大理石のように美しかった。走っていく中で、家の窓から見える家庭の風景が温かかったのが印象的だった。
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