〜一時の安らぎ〜

 私達は宿を出て街を眺めた。昨日のS.U.Nブラスターの傷跡が生々しい……

「あっ!」

 街の再建に明け暮れる人々が、私達の姿を見て集まってきた。もう、噂は広まってるみたいだ。

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 と、ひたすら感謝する者もいれば……

「あと一日早ければ……あの人は死なずに済んだのに!」

 と嘆く者もいた。また……

「魔物が沢山いるあの塔を沈めるなんて……貴方達は一体何者なんだ!?」

 と私達の人間離れした力を疑う者もいた。しかし、概ね塔の崩壊に喜び、街は喜びに満ち溢れていた。

「ルナさんっ!私は、少し街の再建と怪我人の看病を手伝ってきます!」

 色んな人に囲まれて、街の様子を見かねた優しいフィーネそう言って走って行く。

「どうもここには居辛いな……褒められたり悲しまれたり」

 フィーネが去って、リバレスと二人になった私達は、この街の外れにある海岸へと向かっていった。

 この街からは、全く魔の気配がしないからしばらくフィーネから目を離しても大丈夫だろうと思っていた。

「ふぅーやっぱり指輪の姿は窮屈だわー」

 段々日が落ちてきている海岸で潮騒を聞きながら、リバレスは元の姿に戻った。

「それにしても……ルナがねー」

 と、元の姿に戻った瞬間にリバレスが冷やかすような顔で私をまじまじと見つめた。

「な……何だよ!?」

 私は焦って言葉を返す。

「ルナも恋をするのねー」

 からかいながら、リバレスは私の頭の上に乗る。

「……見てたのか?」

 私は顔を真っ赤にして尋ねた。

「ちょっとねー!ま、でもいいんじゃない。フィーネはいい子だしー大事にするのよー!」

 リバレスが私の頬を引っ張った。これじゃあ、まるでリバレスが年上のお姉さんみたいだ……

「……あぁ。わかってるよ」

 私は照れながら俯いてそう答えた。やっぱり、見られてたのか……

 それから、私とリバレスはフィーネの話や人間界での思い出話で盛り上がっていた。すると……

「噂をすれば何とやらねー……わたしは宿に帰ってるわねー!」

 と意味深な言葉に振り返るとフィーネが立っていた!

「あっ……あの……ルナさんとお話がしたいなぁと思って」

 両手を前で重ねてもじもじと照れているフィーネだった。リバレスが、一目散に飛んでいく。

「じゃーねー!ごゆっくりー!」

 相変わらず……お節介な奴だ。

 夕陽が沈もうとする海岸の砂浜で私達は腰掛けた。季節は冬真っ只中になろうとしていた。私が堕天してから毎日どんどん気温が下がってきているのがわかる。季節……天界にはそんな物は無いが、その言葉は人間界に来て初めて知ったんだ。

 夕焼け雲が美しく、今の私達の心を現しているようだ……

「私は、今、とっても幸せです。ルナさんが私の傍にいてくれるから」

 フィーネは恥ずかしそうに私に肩を寄せた。私はその肩を抱き寄せる。

「私もだよ。ずっと一緒に生きよう……フィーネは17歳。私は1826歳。大分年が離れてるけどな」

 私は、照れながら冗談っぽくそう言った。

「……ルナさんが人間なら、18歳ぐらいに見えますね。でも、私はどんなに長生きしても100年も生きられないです」

 私はしまったと思った!フィーネがとても暗い顔をした。そうなんだ!どんなに一緒にいたいと願っても……フィーネは人間だから……でも、リウォルタワーの記録であったようにESGをフィーネに与えれば!だが、フィーネが天使化する前に拒絶反応で死ぬかもしれない。そんなリスクは背負えない!

「100年でもいい……私達が出会ってから、まだ一月も経ってないじゃないか!?これから先に何が待ち受けているかはわからないけど、ずっと、ずっと一緒なんだよ。一緒に生きて、幸せになろう。私は君と共に生きる。約束するから」

 私は今の思いを必死で伝えた。フィーネが好きだから……悲しませたくないから!

「はい、ずっと傍にいて下さいね……私はあなたがいてくれるだけで幸せになれるんです。天国にいるお父さんとお母さんにも、今の私を見せてあげたい……『辛い事もあったけど、私は幸せです』って」

 フィーネは、私の手をギュッと握り締めた。その切実な思いが伝わってくる。そして、私もその手を優しく握り返した。

 私は、この薄幸な少女を心の底から幸せにしたいと願った。絶対に不幸な目には遭わせない!

「ご両親が見ているんなら、尚更フィーネと仲良くしないとな……魔を倒して、この世界を平和にしたら……一緒に暮らそう。どこか、田舎の方に家を建てて……誰よりも幸せに!」

 私はそう言って、祈るように目を瞑って空を見上げるフィーネに優しくキスをした。昨日から何度口付けを交わした事か……

「はい、約束ですよ!ルナさん、大好きです!」

 私達は、未来の約束をしていつまでも、いつまでも夕陽を眺めていた。この時間が永遠に終わらないように祈りながら……

 そして、今の一瞬一瞬を失わないように愛し合っていた。

 

目次 続き