【第十節 存在する意味】 私とリバレスは、リウォルの街を出て破壊された跡を辿って月明かりの中をリウォルタワーへと向かっていた。 「凄い破壊力ねー!」 S.U.Nブラスターの照射を受けた跡は、元は森だったのだろうが……何も存在しなかったかのように消え去っている。 「あぁ、急ぐぞ!」 距離にして30km。全力で走れば一時間もかからないはずだ!私はリバレスを肩に乗せて更にスピードを上げた。 「もう一度禁断兵器が使われたら……わたし達もあの街も滅びるもんねー!」 リバレスが声を震わせた。そう考えると恐ろしい!しかし、あれだけのエネルギーを放射するのだから充填には時間がかかる筈だ。 そんな会話をしていると、リウォルタワーが目前に迫った。遠くに見えるその姿は正しく…… 「あれは……神、いや天界が創った物に間違いないな!」 人間界には不釣合いな程完璧に創られた超高層の塔……材質は大理石。恐らく金属はオリハルコンが使われているのだろう。 「あっ!」 尚も走っていたその時、リバレスが叫んだ!それもその筈だ……数え切れない程の魔! 「塔の周囲を囲む者達……あの全てが魔だ!」 私は咄嗟にリバレスに叫ぶ! 「どうするのよー!」 リバレスが不安げに私の肩を叩く。 「強行突破だ!あれは恐らく、低級魔の集団……数は多いが心配ない!」 残りの距離は200m!私は、神術を使う為に精神力を集中した! 「行くぞ!高等神術『雷光召喚』!」 私の神術の発動よりも早く魔が私の存在に気付いたようだ。全員が恐ろしい形相でこっちへ向かってくる! 「ルナ!危ない!」 「グォォ!死ネェェェェ!」 魔が目前に迫る!牙や爪が私達を引き裂こうとした瞬間!神術が発動した! 「ピカッ!」 まるで、雷の神が舞い降りたかのような雷が魔に降り注ぐ! 「ドゴォォーン!」 凄まじい轟音が辺りの空気を激しく揺さぶり、閃光と電撃が絶え間なく続いた! 「今だ!リバレス!入り口へ急ぐぞ!」 今ので魔の大半は倒したはずだ!そして、私は入り口までに立ち塞がった敵は剣で薙ぎ倒した! 入り口が近い!しかし、入り口の扉は最強の金属オリハルコンで作られていたのにも関わらず破壊されていた! 「一体どれ程の魔が中にいるんだ!?」 私は、そんな疑問を叫びながらリバレスと共に塔のなかに飛び込んだ! 「コロスコロス殺スゥゥ!」 しかし、後続の魔達も私達を殺そうと塔の入り口に向かってくる! 「リバレス!結界だ!」 私はリバレスに叫んだ!その意味を理解したリバレスと私は、入り口に向かって精神力を集中した! 「中級神術『結界』!」 私達は同時に神術を発動させた!結界とは、保護の神術を強力にしたもので、私達とは反する属性である魔を消滅させるシールドになる。これで、魔は塔に入ってこれない!しかし、知能の低い魔の一部はその結界に衝突し砕け散った! 「これでしばらくは大丈夫だな」 私は胸を撫で下ろした。そして、改めて塔の内装を見てみた。天界の古代建築様式と同じだ……この塔は数百万年の月日が流れている。私はそう確信した。荘厳な柱、壁に整然と並ぶ神術で灯された燭台。さらに、上層へ続く階段は螺旋階段で、階段の中央には赤い絨毯が敷かれてある。一階層の高さは10m以上、直径は50mといった巨大な塔だ。扉や燭台、階段の手すりなどは全てオリハルコンだった。 「それにしても……豪華な塔ねー」 古代建造物の中でも最高級の造りだ。よほどこの塔は重要だった事が伺える。 「この塔は……禁断兵器だけじゃないかもしれないな」 私は、この塔には他に何か重要な役割があるような気がしてきた。禁断兵器を封印するだけなら、ここまで労力をかけないだろう。 「なかなかやるじゃないか、堕天使ルナリート!」 突如、不気味な声が響いた!私は声の元を辿った。 「貴様が街を破壊したのか!?」 一見、女に見える魔……ルトネックの村で出会った指揮官クラスの魔に似て、漆黒の体に漆黒の翼……そして漆黒の長い髪。強い! 「私が破壊?お前はもっと賢い奴だと思っていたけどねぇ……私の力程度でこの塔の封印を破れたと思うのかい?」 この女の力は……ルトネックの時の奴より若干劣るように感じる。確かにその力では神がつくった封印は破れないかもしれない。 「それでは、貴様では無くもっと強力な魔が塔の上層にいるということか!?そいつが兵器を使ったんだな!」 私は剣を抜いた。指揮官クラスで無くても、強力な力を持つ魔の女を睨みつける! 「ご名答!でも、お前はこの塔の秘密も知らないまま、私にここで殺されるから関係ないけどね!」 魔が力を解放した!一見普通の女に見えていた魔は体中が筋肉で膨らみ、牙と爪が伸び剥き出しになる! 「ルナ!相手は強いけど大丈夫なの!?」 敵の様子を見たリバレスが私の背中にしがみつく。今の魔は間違いなくルトネックの魔よりも強く知能も高い! 「あぁ、でも負けるわけにはいかないだろ!」 不思議と恐怖は無かった。私はフィーネに戻ると約束したんだ!負けられないんだ!……しかし、その時! 「お前がエファロードの力を使う前に殺してヤルゥゥ!」 恐ろしく低い声に変わった魔は猛スピードで突進してきた!エファロードが何かはわからないが油断すれば殺される! 「喰らえ!」 精神力を破壊力に変換する剣、オリハルコンの剣を全力で振り抜く! 「ガキンッ!」 剣を握る手が痺れる程の衝撃が走った!手応えが無い! 「効かぬワァァ!」 その瞬間!強靭な腕の一撃が私の腹部を捉える! 「ウァッ!」 腹から押し出される空気で出た音と共に、私は壁まで弾き飛ばされた! 「ボキッ!」 壁が背中に激突すると同時に、体内から嫌な音がした!骨の一、二本は折れただろう。 「死ネェェェ!」 私が飛ばされた所まで魔は一瞬で間を詰めて、私を蹴り上げた! 「ガハッ!」 声にもならない音と共に10mも上にある天井に飛ばされる! 「ドォォー……ン!」 轟音と共に天井に激突し、私は床に落ちた……骨折と激痛で体中が痺れる! 「うぅ」 私の体は動きそうに無い。苦痛の息が漏れた! 「ルナー!」 すぐさま、リバレスが近寄り、私に『治癒』の神術をかける!しかし、それを魔が黙って見ている筈も無い! 「天翼獣如きが邪魔をするなァァ!」 刹那で間を詰められて、リバレスに魔の裏拳が炸裂した! 「キャー!」 この塔に響き渡る程の叫び声で、リバレスが遠くの床に叩き飛ばされた! 圧倒的な力だ!絶望的な程……力の差を感じる。 「リ……リバレス!」 私は、少し回復した体で剣を杖代わりに立ち上がって叫んだ!僅かに……生命力を感じた。リバレスは瀕死ながらも生きている!リバレス!こいつを倒したら必ず助けるからな!……お前を死なせはしない! 「貴様の相手は……俺だろう!」 リバレスが瀕死になって、自分自身が死の淵まで追い込まれて……俺の力の一部が解放された!髪が銀色に染まる! 「エファロード!」 魔に動揺が見られた!しかし! 「アハハハハハハハ!それが第一段階か!笑わせるねぇ!」 低い声で嘲笑が響く……だが、今の俺の力ではこいつを倒すのは容易い筈だ。 「何が可笑しい!?」 俺は怪我が治っていくのを感じながら、剣先を魔に向けた! 「その力で、今の私を殺せても……上で待つ主の足元にも及ばないということさ!愚かな堕天使よ!」 今の俺の力でさえ、魔に勝てない?空言を!いや……もしかすると……俺の頭は少し混乱した。 「油断したね!私は主の一部に過ぎない!偵察に来ただけなんだよ!上で会おうじゃないの!」 俺の一瞬の隙をついて、狡猾な魔は消えた。ただ、俺の偵察に来ただけだと?それより! 「リバレス!」 崩れた大理石の転がる横にリバレスは倒れていた! 「治癒!」 普段の数十倍の力で、俺はリバレスに治癒の神術を使った!瞬時にリバレスの傷が治る! 「うーん……ルナ!?」 俺はリバレスの頭を優しく撫でた。お前がいなかったら、二人とも殺されてたよ…… 「大丈夫か?」 俺はリバレスに微笑んだ。 「わたしは……大丈夫だけどールナ、髪が銀色になってるわよー!」 元気になったリバレスが俺の髪を指差した。 「あぁ……これで三度目だな。一体私は何者なんだろう?」 刹那の静寂の後に、私の髪は元の赤色に戻った。一気に体の力が抜ける! 「大丈夫ー!?」 力が抜けてよろけた私を、リバレスは心配そうに見つめた。 「大丈夫だ。強力すぎる力の反動だよ」 止むを得ず私とリバレスは、大理石の柱にもたれて数分の休憩を取った。しかし、先を急がねば! 「行こう!上で巨大な魔が動き出す前に!」 私は、リバレスを肩に乗せて螺旋階段を上がっていった。
| |
目次 | 続き |