第十二節 蹶起(けっき)

 

 城に戻ったルナとシェルフィアは、リバレスとハルメスから大いに祝福された。今宵は、今後の方針の話し合いを兼ねた、祝宴を開く事となる。

 屋上にテーブル、椅子、そして水晶で作られた透明なピアノが運ばれた。シェルフィアは、最高の料理を作る為に腕を振るっている。そして、全ての準備が整った。

 

 冷たく澄んだ空気、満天の星空と街の灯火の光が四人を包む。

「おめでとう、お帰り!」

 兄さんとリバレスの声で祝宴は始まった。シェルフィアが作った料理は、今まで食べた物の中で最高の味だった。料理長の名は伊達じゃ無い。それに、彼女はピアノの腕前も素晴らしかった。透明感のある音を出し、尚且つ穏やかな気持ちにさせる。彼女の心そのものが、音楽となって流れているようで心地良い。

 ゆったりと時は流れ、話は核心へと迫っていった。

「計画まで三ヶ月、私達が行なうべき事は何でしょうか?」

 私は椅子から身を乗り出し、兄さんの目を見据える。

「それは今から話す。だがその前にシェルフィアの力は、一体どうしたんだ?」

 やはり兄さんも気付いていたらしい。彼女からは、只ならぬ力が滲み出ている。

「皇帝、私はルナさんとの約束の為に生まれ変わりました。だからきっと、私の魂がルナさんと共に戦う事を望んだのでしょう」

「そうかも知れないな……。だがお前から感じる力は、天使の力でも無く魔の力でも無い。無論、ロードやサタンとも違う」

 私には其処までは解らない。兄さんの言葉が正しいとすれば、どう言う事だろう。

「私の力が何故生まれたかは解りません。でもこれは、ルナさんを助ける為の力。悲劇を繰り返させない力。そして、平和を創り出す力なんです!」

 彼女が目を開き、力強い声で断言した。兄さんは暫く無言を通した後、微笑んだ。

「シェルフィア、お前は強くなったな。この城に来た頃とは別人だ……。ルナを、そして俺達を助けて欲しい」

 兄さんが頭を下げる。シェルフィアは慌てて首を振る。

「皇帝、私は貴方に感謝してもし尽くせません。貴方は私を、我が子のように大切に育てて下さいました。私はルナさんと作る未来の為に、そして皇帝の為に戦います!」

「兄さん、皆で勝利を収めましょう」

「わたしもお忘れなくー!」

 私が手を差し出すと、全員がそれに手を重ねた。結束の証だ。

 

「そろそろ本題に入ろう。俺達の課題は三つだ。一つはこの人間界の戦乱を収めて、人間同士の結束を強める事。次に、獄界からの侵攻を防ぐ事。そしてこれが最も重要な事だが、『神』に計画を中断させる事だ。人間界を中界にする計画は、神が示した計画。神の考えを変えさせない限り、この計画は止まらない。解るな?」

 兄さんの顔は少し青褪めている。私は課題遂行の重さと困難さに身震いした。

「はい、私はどうすれば?」

「ルナ、お前はシェルフィアとリウォル王国へ行ってくれ。お前達が行けば、戦乱を終わらせる事が出来る」

「兄さんでも無理だった事を、私達に出来るのですか?」

「ああ、行けば解る。(余談だが、宝飾技術は世界一だ)」

 余談は、わざわざ「転送」で伝えて来た。兄さんの真意は汲み取れないが、行こう。

「解りました。その言葉を信じて行って来ます。一月、否、一週間で戦争を終わらせます」

 それぐらいの意気込みが無いと、計画を止める事など出来はしない。

「頼りにしてるぜ!」

 私とシェルフィアが頷く。其処でリバレスが、私の肩に停まった。

「わたしは、ハルメスさんの元で修行よー」

 私は耳を疑った。他にもっとすべき事があるのでは? リバレスは確かに力を付ける必要があるだろう。だが、兄さんはリバレスを鍛える事だけに時間を費やすのか。

「兄さんは、それ以外にどうするのですか?」

 私の質問の意図を瞬時に読み取り、彼は苦笑する。

「俺は彼女の修行に付き合う以外は、『ある調査』を行なう。世界の命運を左右する事だ」

 有無を言わせない、剣よりも鋭い眼光。其処には、鋼よりも固い意志が宿っている。

「……解りました。全員の健闘を祈りましょう!」

 私達はお互いの目を見て大きく頷き、再び手を重ねた。私とシェルフィアの出発は明日と言う事で、今日は解散となった。

 私とシェルフィアの寝室。其処にはリバレスも居て、夜遅くまで色んな話で盛り上がった。二百年前と私達は何ら変わっていない。

 リバレスが別の部屋に移った後、私とシェルフィアは愛し合った。そしてシェルフィアが眠りに就くまで抱き締める。零れるように滑らかな髪を、ゆっくり撫で続けながら……

 

 彼女が眠った後、私は彼女の唇にそっとキスをして、ベッドを抜け出した。




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