第十節 永続

 

 窓から真っ白な光が飛び込んで来る。その眩しさで、ルナの胸に頭を預けていたシェルフィアが目を覚ました。彼女は微笑みながら、彼の鼓動を聞いている。

 今日からが二百年前の続きだ。彼女は、ルナを目覚めさせぬよう頬に軽く口付けをして、ベッドから抜け出した。彼の為に、宿屋の厨房を借りて朝食を作るのだ。

 

「あっ、おはようございます!」

「おはよう!」

 朝食を部屋に運んでいると、ルナさんが起きた。寝起きなのにパッチリと目が開いている。彼は直ぐに立ち上がり、私が持つ食器をテーブルに置いてくれた。

「ルナさん……、私は幸せです」

 私は彼の背中に手を回し、頭を彼の胸に寄せた。彼はそっと私を抱き寄せ、髪を撫でる。

「私も幸せだよ。これから先もずっと一緒だ」

「はい……。私はもうあなたから離れません。だから、私から離れないで下さいね」

 もう離れ離れは嫌だ。何があっても、絶対に。

「さぁ、ルナさん。冷めない内に一杯食べて下さいね!」

 余り時間が無かったから、手の込んだ料理は作れなかったけど、ルナさんは「美味しい」と言って食べてくれた。城に帰ったら私の本気の料理を見せなくちゃ。

 ルナさんが朝食を一通り食べたのを見て、私は「あるものを」運んで来る。

「これは……!」

 彼に渡したのは、思い出が詰まった一枚のトースト。

「辛くて美味しいな」

 瞬く間にルナさんは「辛いトースト」を食べてくれた。思わず、涙が滲む。

「ありがとうございます。私は、そんなルナさんの優しい所が大好きなんですよ……」

 そう言ったのは良いけれど、恥ずかしくて俯く。するとルナさんが、突然立ち上がった。

「私達の未来の為に、話す事がある」

 彼は両手で私の肩に手を置き、真剣な眼差しを向けた。

「えっ、どんな事ですか?」

「今後、この世界に起こる事についてだ」

 

 ルナさんは、「新生・中界計画」について私に話した。私は「驚く振りをしながら」それを聞いた。その計画については知っている。シェルフィアとして生まれる前、「魂界」で聞いたからだ。でも魂界については秘密にする約束なので、ルナさんにも言えない。

「ルナさん、今のお話を聞いて一つお願いがあるんです」

「ん? 一体何のお願いだ?」

 ルナさんが狼狽(ろうばい)している。私が冷静過ぎるからだろうか。

「私も戦わせて下さい。もう私は、あなたに守られているだけじゃ駄目なんです! 皇帝もリバレスさんも、人間の為に戦ってくれるのに、人間の私が戦わないのは可笑しいです」

「何を言うんだ! 君の力では戦う事は出来ない。天使や魔が、どれ程の力を持つかは知ってるだろ?」

 尤もだ。私が「只の人間」ならば。でも私はもう弱くない。今こそ、それを見せる時だ。

「これでも、駄目ですか?」

 私は目を閉じて意識を集中し、自分の体の周りを高等神術「滅炎」で覆った。

「君はどうしてそんな力を……?」

「私の心が一つになった瞬間、こんな力が扱えるようになったんです。きっとフィーネだった頃に、ルナさんに何度も力を貰ったから。そして、獄界に堕ちて再び転生する事が出来たから。こうなった理由は解らないけど、この力はあなたを助ける為にあるんです!」

 満更嘘じゃ無い。この力が身に付いたのは、「魂界」のお陰だから。

「その力でも勝てない敵は沢山居る。だから……」

 ルナさんは、私が心配だから戦わせたく無いのだ。でも私は、如何なる時もあなたの隣に居たいの。

「今の私には戦える力があります。これで、本当の意味で私はあなたから離れる必要がありません。私達はずっと一緒に居ると約束したじゃないですか。だから!」

 これだけは譲れない。私は彼の目をジッと見詰める。束の間の逡巡の後、彼は口を開く。

「……解った。でも、私は君を最優先で守るからな」

「はいっ! 私も、あなたを最優先で守ります」

 ルナさんは苦笑しながら頷く。そして私達はもう少し二人で居てから城に戻る事にした。




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