第三十二節 残夢温かい、あなたの腕、胸。あなたはまだ眠っている。一定のリズムで呼吸して、その度にあなたの胸が上下する。私の頭もそれに合わせて動く。同じ時間を共有している、そう考えると嬉しくて仕方無い。もしこれが夢なら、見果てぬ夢であって欲しい。 私はルナさんと、どんな家庭を築くのだろう? 子供は二人欲しいな。私は一人っ子だったから。暮らすのはミルドかな? ルナさんと一緒なら何処でも構わないけど。 ルナさん、私にはもう何の不安もありません。あなたが全部、取り去ってくれたから。 カーテンの隙間から、真っ白な光が射し込んで来る。今、何時だろう? 「フィーネ……」 ルナさんが目を覚ました。起きて直ぐに、彼は私をゆっくりと抱き締めてくれる。 「ルナさんっ、おはようございます!」 「おはよう、フィーネ」 彼の顔が目の前にある。私達は、目を閉じキスをした。 暫くして、ルナさんが懐中時計を取り出した。それを見た途端、彼は立ち上がる。 「フィーネ、もう正午を回ってる!」 私も立ち上がり、急いで帰り支度をする。そして、宿を飛び出した。リバレスさん達、心配してるだろう。 「うわぁ……、一面真っ白ですね」 唯でさえ白亜が眩しい街なのに、今は何もかもが真っ白だ。家も、地面も、街灯も。ルナさんが、眩しさに目を細める。私は彼の手を握った。温かい、最愛のあなたの手。 「ルナさん」 「ん、フィーネ、どうしたんだ?」 ルナさんが白い息を吐きながら、私の顔を見詰める。 「……昨日の事、私は一生忘れません。ううん、何度生まれ変わっても絶対に。もう何も怖くありません。死ぬ事さえも」 「ああ、私も絶対に忘れない。これからも、ずっと仲良くやっていこうな」 ルナさんは、笑って私の体を抱えた。足が宙を舞う。恥ずかしい、けど…… 「ルナさん、大好きです!」 「私もフィーネが大好きだよ。よし、このまま神殿まで走るか!」 ええっ、このまま走るんですか! ルナさんの馬鹿。でも、このまま二人で走って行きたいです。ずっと、永遠に。
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