〜漂流三日目〜

 今日は船窓から差し込む、S.U.Nの眩しい光で目を覚ました。この世界では、S.U.Nを『太陽』と呼ぶらしいが。

「いい天気だな。昨日の嵐が嘘みたいだ」

 珍しく、フィーネよりも早起きしたリバレスに話しかけた。

「そーねー!でも、昨日の嵐で船が何処にいるのかわからないけどー」

 明るい表情から、ガクッと一気に肩を落とした。相変わらずのオーバーリアクションだ。

「ははっ、でも今は南西に向かってるから大丈夫だろ」

 私は笑いながらそう答えた。私も、随分と楽観的になったものだ。

「ルナがまた笑ったー!最近笑う事が多いわよー!昔は一年に一回も笑わなかったのにー!」

 と、リバレスまで笑い出した。今日は快晴で、雲一つない。風も穏やかだ。これなら、もうすぐリウォルに着きそうな気がしていた。

 そして、そんな気がしたので、私は残りの食糧を全て食べた。全てといっても、乾パン2枚だが……

 リバレスはESGを摂る。私は、ESGを摂りたくなったがその衝動を抑えた。私がESGを摂取する事は堕天の意味が無くなるからだ。

 最悪の場合、天使である資格を剥脱されかねない。

 昼前になってようやく、フィーネも目覚めた。昨日の事でよほど疲れていたんだろう。

「おはよう、フィーネ」

 私達は、眠そうに甲板に出てきたフィーネに同時に声をかけた。

「昨日はよっぽど疲れてたんだな」

 私は、まだ眠り足りないといった様子の彼女に問い掛けた。

「いいえ……昨日は眠れなかったんです」

 と、フィーネは予想外の返事をした。

「へーえ……身近にいる堕天使の事でも考えてたんじゃないのー?」

 リバレスは、即座にフィーネに余計な質問をする。そんな筈が無いだろう?

「……ち……違いますよっ!」

 フィーネの顔が真っ赤になった。本当に嘘をつけないんだな、と思うと同時に私まで恥ずかしくなった。

「そ、その話題はやめにして……フィーネ、朝の支度でもしてきたらどうだ?」

 少し焦り気味の口調で、フィーネにそう言った。

「は、はい!そうしますね!」

 その瞬間、フィーネは背をむけて走っていく……途中でつまずいていた。

「二人とも照れ屋ねー」

 と、リバレスが笑いながらメインマストの上まで飛んでいった。本当にお節介な天翼獣だ……

 今日は平和に過ぎていく……そう思っていた。しかし!

「(魔物よー!)」

 リバレスが、私とフィーネに強いテレパシーを送った!

 その直後、3体の魔が現れた!その姿は巨大なカラスに手足が生えたような姿だった!

「大した強さじゃないな」

 私は、瞬時に魔の強さを読み取った。この魔は言葉も話せず、知能も低い……

 そう思った瞬間、三匹の魔が急降下してきた!何とかオリハルコンの剣を抜く!

「くっ!」

 私は、怪我は防げたが、不意をつかれて少しよろめいた!油断してはいけない!

「グァァッ!」

 奇妙な叫びを上げながら、魔が三匹ともよろめいた私に猛攻撃をかける!

「初級神術『落雷』!」

 リバレスが、魔の一匹に雷を落とした。電撃を受けた魔は消滅した。

「ルナさん!」

 タイミングの悪い時にフィーネが現れた!

 咄嗟に二匹の魔が標的をフィーネに変える!

「中級神術『天導氷』!」

 私は、フィーネを避けて魔に氷の渦を放った!

「ギイィィヤァァ!」

 一匹が凍りつき、マストに激突して粉々に砕けた!しかし!

「フィーネ!」

 尚も生き残った一匹が、フィーネに向かって疾走する!

「ガキンッ!」

 鈍い音が響いた!すると、緑の血を流しながら魔は天空へと逃げていった。

「どうなってるんだ?」

 私は、フィーネを見ると折れた剣を構えているのがわかった。近くに剣の破片がある。

「手がジンジンしますね!」

 フィーネは、勢いよく疾走する魔に剣を全力で振ったのだろう。さすがの魔もあれだけ勢いがあれば、人間の攻撃が効くようだ。

「やるじゃないか!」

 私は、魔に臆せず剣を振ったフィーネを褒めた。

「ありがとうございます!ルナさんが戦ってるのに、私だけ何も出来ないのは悔しいですから!でも、魔物って、固いんですね。びっくりしました。あんな魔物を倒せるルナさんはやっぱり凄いですよ!」

 フィーネは嬉しそうに微笑んだ。

「買いかぶり過ぎだよ。私だって、強い魔物には勝てないんだ。むしろ、君の勇気の方がすごいよ」

 それは私の本心だった。フィーネは照れながら否定していたが、彼女には私に無い強さや良さがいっぱいあると確信している。

 その後は、平和に夜まで時間が流れていった。

 

目次 続き