【第六節 星は一つへ】
シェ・ファは何処までも落ちて行く。海も岩盤も溶岩も、あらゆるものを消し去りながら。それと同時に、彼女の体(精神体)は精神エネルギーの粒子となり、星の核へ還元される。
その最終段階、つまり彼女の体が全て星へと還る直前、一つの巨大な結界が破壊された。
それは、獄界を獄界たらしめる結界である。
結界が消えるという事は、獄界が元の姿に戻る事を意味する。
かつて、星に『界』は存在しなかった。神と獄王によって、『天界』、『中界』、『獄界』に分断されるまでは。
星を三界に分けたのは、神と獄王の強大なエネルギーである。天界は、神が星の地上を浮かび上がらせ、結界とエネルギーの膜で覆う事によって生まれた。獄界も同様に、獄王が星の海と陸地の一部を削り取り、地中に空間を作って転送し、結界とエネルギーで覆った事が始まりである。
現在、獄界を維持するエネルギーを注ぐ者は居ない。よって、結界の崩壊は必然的に獄界の存続を不可能へと導く。
獄界は、かつての場所へと戻る。そう、天界が地上に落ち『聖域ロードガーデン』となったように。その場所は、丁度ルナリートとシェ・ファの戦いによって消滅した空間である。
獄界の溶岩は冷やされて岩石となり、闇の海は地上の海と同化する。
そして……、魔も毎日光を浴びる事が出来るようになるのだ。
夜明けが迫っている。全ての者の、生きる事による幸福と苦しみを伴った『永遠』の夜明けが。
例え日没と共に死が訪れようとも、畏れる必要は無い。
『彼の地』が待っているのだから。
天使も人間も魔も、最早関係無い。平等に生を享受し、死を迎える。
長い年月をかけて、種は一つになるだろう。
星(シェファ)が生命の未来を願っていてくれる限り、『生命』を否定する者は居ない。
もし遠い未来、自らの破滅を望む生命が現れたとしても、希望の灯火は決して消えない。
一人一人の『永遠の心』は、未来永劫受け継がれていくのだから。
暁は生命に希望を与え、光は生命を養い、黄昏は明日への活力を生み、闇は生命を包み眠りを与える。
生命は螺旋軌道を駆け抜け、何度でも生まれ変わるだろう。
『永遠』に『終焉』は無い。懸命に生きる者は誰もが美しい。
『彼等』が生きた物語は、もうすぐ終わる。だが、物語は生命が連綿と語り続け、心の中で生き続ける。
そして、物語の終わりは新たな時代のプロローグでもある。
Lunaが目覚めようとしている。
自らの存在意味を全うする為に。