【第九節 信念の戦い】

 

「カラーン……カラーン!」

 

 フィアレスが去ってから半年後の、真冬の深夜……。突如鐘の音が激しく鳴り響いた!

 この鐘は城の最上部にあり、聖域ロードガーデンに侵入者が現れた時に鳴るよう神術を施している。つまり、これは開戦の合図だ!

 今日は家族三人で眠っていたが、皆すぐに飛び起きた。私は新しい剣を持ち、オリハルコンの鎧を着る。シェルフィアも剣を携える。そして、彼女とリルフィは、聖石が埋め込まれた防御力の高い服を纏った。

 準備は整った!

 私は、各街にいる代表者達に意思を転送する。

 

「皆、目を覚ましてくれ。ルナリートだ。たった今、フィアレスと魔の襲来を感知した。これより、戦いが始まるだろう。平和な未来を勝ち取る為に、各自の力を存分に発揮してくれ!高い理想と強固な意思を持つ我々は、決して負ける事は無い!」

 

 これで、世界は目を覚ました。

 城下町から地鳴りのような群集の声が聞こえてくる。皆、先刻の鐘に音で既に目を覚まして家の外に出ているのだ。

 私達は、テラスへ立った。剣を翳し、大きく息を吸い込む。

 

「今から、神と獄王……。人間と魔の最後の戦いが始まる。私達が勝利すれば、未来永劫の平和がこの星に訪れるんだ。愛する者の為に……大切な者を守る為に、皆で力を合わせよう!」

「うおぉぉ!」

 

 人々の顔がガス灯に照らされ、決意と力に漲っているのがはっきり解る。私達は安心して城を飛び立った。二人は空を飛べないが、今は神術で私の近くに固定しているので落下はしない。

 

 私達は城の上空から、聖域の上空まで『転送』によって移動した。

「パパッ!」

 リルフィが私に抱き付く。それもその筈だ……。眼下には、聖域を埋め尽くす程の魔の集団。十万は軽く超えるだろう。

「大丈夫だ。それに、一箇所に固まっているなら手っ取り早い」

 聖域全体の魔に『不動』の神術をかけようとした、その時!

「(君の考えなど、お見通しだよ。)」

 脳裏にフィアレスの声が響き、聖域の中心に強い力が集約されるのを感じた。そして、獄王フィアレスの声が谺する!

「行け!魔に、光溢れる未来を!」

「パァー……ン!」

 聖域の結界が破られ、次の瞬間には全ての魔……否、一人を除いた魔が消えていた!

 私は、目の前の情報を理解する為に、頭を全速力で回転させる!

「そうか……手強いな」

「そうね。向こうも、私達と同じ理由で戦おうとしている」

 シェルフィアは頷きながらそう言った。リルフィも理解したようだ。

「魔は、人間界の各地に転送されて……獄王は、傍に連れている女の魔の為に戦おうとしているのね」

 今度は三人共頷いた。

「降りて来い、ルナリート」

 フィアレスが魔剣を突き出し、空にいる私に切っ先を向けた。

「あぁ。望む所だ」

 私達は結界が破れた聖域へと降り立った。

「剣を抜け、ルナリート。僕が『人間界』を否定してやる」

 迷い無き信念を湛えた表情。勝利を確信した目……。そして、隣に居る『妻』と思しき魔。フィアレスは、エファサタンの血に従って此処に来たのでは無い。私達と同じ理由で此処に立っているのだ。

 最愛の者と創る未来の為。

 生温い事は言っていられない。勝った者が、理想を実現させられる。それがたった一つの真理。

 私は、否、俺は剣を抜き力を全て解放した。同時にシェルフィアも剣を抜き、俺の横に並ぶ。だが……

「私の名はキュア。妻として、フィアレス様の身を守る!」

 キュアと名乗る彼女は、背中に差した大振りの剣を抜いた。彼女は魔にしては、肌の色が薄く容姿も人間に近い。だが、感じられる力の密度は魔の中でも間違い無く最高クラスだ。剣が風を裂き、シェルフィアに向けられた。

「私をご指名なのね。いいわ。あなたに、ルナさんの邪魔をされる訳にはいかないから」

 シェルフィアとキュアが睨み合う。だが、シェルフィアが幾ら強いとは言え心配だ。

「(シェルフィア!)」

「(大丈夫。無理はしないから。ルナさんは、自分の戦いだけに集中して!)」

「(解った。リルフィは、ママのサポートを頼む!)」

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