「私を敵と認識出来た貴方は聡明ですが、その剣は無意味です」
こいつは危険な存在だ。俺は剣を振り下ろす!だが、剣は虚しく空を切るだけだった。
「この街の総人口から、貴方が助ける人間を引けば丁度半分です」
何を言っている!?意味が解らない!
「意味を理解する必要はありません。『理解』とは、状況を把握して未来の行動に繋げる為のもの。未来が無ければ不必要です」
未来が無い。その言葉の裏に隠されているもの。それは……死!
「ふざけるな!人の命を何だと思ってやがる!?」
怒りに震える俺に影響される事も無く、女は口を開く。
「私の一存で決まる、不確かなものです」
何て奴だ……。命はこいつにとっては些細なもの。そんな事が赦されて良い筈が無い!
「うぉぉ!」
俺は、滅茶苦茶に剣を振り回し神術を放った!だが、剣は敵に触れる事も出来ず、神術は届く前に掻き消されるだけだった。
「気は済みましたか?そろそろ始めましょう。83秒、それがこの街に残された時間です」
その言葉の直後、この女の体は白光に包まれ数え切れない程の光線が放射された!
「止めろ!」
俺は究極神術を込めた聖剣を突き立てる!だが、聖剣は抵抗も無く崩れ去った。
「助けて!」
眼下で、人間達が光線に焼き尽くされるのが見える!ジュディアは……無事だ!
「セルファス!」
青褪めた顔をしたジュディアがこっちに向かって飛んでくる。
「来るな!」
俺は力の限り叫んだ。だが、彼女は止まらない!
「逃げるのよ!」
彼女が半狂乱になって泣き叫ぶ。
「(俺が助ける人間を引けば)」
見渡す限りの人間達が、燃え尽きていく……。この女の言った事を俺は理解した。
そうだ、俺には選択肢が無いシェ・ファは未来さえ予期している。この街の人間は、俺がこの後助ける者を除いて全員殺される!俺が助ける者、それはジュディアとウィッシュ。そして、避難所に居る女子供達だ。ルナから貰った『転送』の輝石と、俺の精神力を合わせて救えるのはそれが限界だからだ。
もし俺が逃げれば、本来助かる筈の一人が死ぬ。それは、ジュディアかもしれないし、ウィッシュかもしれない。それだけは絶対に駄目だ!愚図愚図するな。この命は、愛する者の為に捧げると誓ったんだ!
「ジュディア、お前は俺にとって勿体無い位最高の女だぜ。色々迷惑かけちまったが、俺の人生は最高だった。後は、ウィッシュの傍で最高の……お母さんでい続けてやってくれ。元気でな!」
俺はジュディアの方は振り返らず、拳を空に突き上げた。振り返れば、俺が泣いているのがバレちまう。
「セルファスー!」
俺は、輝石にありったけの精神力を込めて『転送』を発動させた。
ジュディアの姿が消える。ウィッシュも、避難所の人間もこの街から退避出来ただろう。
「貴方の死で、人間界の人間は丁度半分になります。私は次に獄界に向かい、魔を半分抹殺します。次に残りの人間と魔を抹殺します。最後にルナリート・ジ・エファロードとフィアレス・ジ・エファサタンを同時に抹殺します」
「(ルナ、後は頼んだぜ。)」
俺は微笑んだ。最後の刻は笑って死ぬって決めていたからだ。愛する女性と結ばれ、子も授かった。上出来な人生だぜ。
「時間です、セルファス・オーバーレイヤー。死を恐れる事はありません。『私という存在』があるのだから」
その声の後、俺は目を閉じた。
「ブシュッ」
胸を、冷たい刃で抉り取られた感触……。この世のものとは思えない程の低温……
ジュディア、ウィッシュ。必ず、再び巡り会えるさ……
またな。