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 昼休みのチャイムが鳴り、雪那は級友の美(み)菜(な)の元に向かった。一緒に弁当を食べる為だ。この学校では、弁当を食べる生徒と、食堂で定食などを食べる生徒が大体半々に分かれている。雪那には美菜の他に仲の良い友達がクラスに二人居るが、その二人は食堂で食べているので昼休みは美菜と二人だ。雪那は、美菜の隣の空いた椅子に座る。

「もー、お腹ペコペコ!」

 美菜が情けない声を上げながら、パッと弁当を袋から取り出す。その様子を見て雪那が笑った。美菜は、褐色のショートヘアーがトレードマークで、活発で大雑把な印象を受ける少女である。周りからは印象通りと受け取られているが、雪那はそうは思っていない。

「男子は、午前中の休み時間に早弁出来るけど、女はなかなか出来ないもんね」

 少なくとも私は出来ないな。どんな目で見られるか解らないもん。

「そうそう! 男子は羨ましいわぁ。男に生まれたら良かったっていつも思う」

「大袈裟な! さ、食べよ」

 十分も経たない内に、美菜は弁当を食べ終えた。本当にお腹が空いてるんだなぁ。さて、今の内に美菜に「お願い」をしないと。

「ふー、満足満足! 食べるのって幸せよね」

「ふふ。ところで美菜、お願いがあるんだけどいい?」

「あら、雪那が私にお願い? 初めてじゃない! いつもは私が宿題見せて! とか言ってるのに。雪那のお願いなら何でも聞いちゃうよー」

 やっぱり美菜は頼りになるわ。友達で良かった。

「あのね、今日、私は美菜の家に泊まりに行ってる事にして欲しいの」

 雪那の言葉を聞き、美菜は目を丸くした。しかし、美菜は直ぐにその言葉の意味を理解する。

「彼ね。迎居君と過ごすつもりね」

 周りには聞こえないような小さな声。美菜は決して大雑把なんかじゃ無い。他の人よりも気遣いが出来る子なのだ。元気に振舞ってるのは、周りの人間を元気付けたいから。

「うん」

 雪那が美菜の目を見ながら頷いた。美菜は苦笑を浮かべ、真剣な目で雪那を見詰める。

「あんまり、焦らなくてもいいんじゃ無いの? 彼は逃げたりしないと思うよ」

 私もそう思う。別に焦ってる訳でも無い。唯……

「緋月と居られる時間は、一秒でも大切にしたいの」

 感情を抑えた声。しかしその声は、抑えられたが故に強過ぎる意思を孕んでいた。雪那のそんな声を初めて聞いた美菜は、思わず仰け反って上体を椅子の背に押し付けたが、その後は我に返ったかのように身を乗り出した。

「解った。雪那の親が家に電話掛けてきたりしたら、上手く誤魔化す」

「ありがとう、ごめんね」

「いいのよ、せめてもの恩返し!」

 美菜が雪那の肩を、バンッと叩く。雪那は、美菜にしか解らぬように頭を下げた。

 焦ってなんかいない。不安でも無い。でも、一緒に居られる時間が限られている気がして……。人間はいつか必ず死ぬから、誰の時間も有限だけど、私は緋月と出来る限り一緒に居たい。緋月と私が一緒に生きてるんだって、実感したいの!

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