第三十三節 欠片
神殿へ帰り着いたルナとフィーネは、待ち構えるハルメスとリバレスに叱責された。ルナとフィーネは何度も謝り、連絡も無しに姿を消すような事はしないと誓った。
大広間の隣室の食堂で、遅い昼食を四人で囲む。今後について話し合う為だ。ハルメスが、世界地図を広げてテーブルから最も近い壁に貼り付ける。
「食事も済んだようだし、そろそろ始めよう」
兄さんの目が鋭くなる。私は地図を注視し、身構えた。
「此処を見て欲しい」
兄さんが指差した先には赤い印が付けられている。フィグリルから南南西に百km地点。海上に浮かぶ小島だ。四方が切り立った崖の島。
「この島には、『輝水晶の遺跡』がある。二ヶ月程前に、俺の部下が発見した遺跡だ。部下は、遺跡に落ちていた銘板の破片を持ち帰った。其処には何が書かれていたと思う?」
彼の表情から意図を読み取るのは困難だ。笑っているようにも、深刻そうにも見える。私は首を振った。だが、リバレスが口を開く。
「グッドニュースですよねー?」
「その通り。リウォルタワーの古代文字よりも古い文字で、『冥界(めいかい)の塔』、『封印』と書かれてあったからだ。冥界の塔は『死者の口』を意味する。もしこれを封印出来れば……」
「魔物の侵攻が止まるんですよね!」
フィーネが身を乗り出して声を上げた。兄さんは大きく頷く。輝水晶の遺跡には、「冥界の塔」と「封印」に関する情報がある。もしかしたら、その手段があるかも知れない。ならば取るべき方法は一つだ。
「行きましょう、その可能性があるなら」
「お前ならそう言うと思ってたぜ。本来なら、俺が遺跡の細部まで調べるべきだが、俺はこの街から長時間離れる訳にはいかない。結界が消えるからな。この街の外には、数千の魔が息を潜めている。だから、俺は『転送』でお前達を島まで送らせて貰うぜ」
苦い顔をするハルメス兄さん。本当は自力で調べたかった筈だ。だが、兄さんは私に全てを任せようとしている。期待に応えなければ。
「解りました。しっかり調査して来ます」
「済まないが頼む」
私と兄さんは拳を突き合わせる。そして、兄さんから「転送の聖石」を貰った。これは転送の神術が込められた石で、私達が遺跡から帰還するのに使う。
「そうそうルナ、調査が一段落したら帰って来るようにな。今晩はご馳走だ」
兄さんとリバレスが微笑んでいる。どうしたのだろう?
「ルナー、今日は何の日? 十二月二十四日よ」
「私の、否、私とハルメスさんの誕生日か!」
私と兄さんの誕生日は偶然同じだ。それにしても、兄さんと私は共通点が多い。
「えっ! ルナさん、言って下さいよぉ。私、何の準備もしてないです」
フィーネが私の服の裾を引っ張る。人間界に来て自分の誕生日などすっかり忘れていた。四人で笑い始めたその時、隣室から「ピアノの音」が聴こえて来た。完璧な音程と、悲しみに満ちた旋律。そして、狂気が滲んだ鍵盤を強打する音が。