目に涙を溜めながらフィーネは懸命に私達に礼を尽くした。
「それにしても、フィーネ。そんな他人行儀にならずに、私達は呼び捨てで構わないんだぞ。それに敬語も要らない」
私は、正直フィーネの一歩引いた喋り方を普通にして欲しいと願っていた。
「い……いや、それは無理ですよ!恐れ多いです!でも、もしも……この戦いが終わったら……そうしてもいいですか?」
と、逆に申し訳無さそうにフィーネはそっと私の目を見つめながら答えた。
「それじゃー、ルナとフィーネの為にも早く戦いを終わらせないとねー!」
その時リバレスがまた、鋭い横槍を入れた。余計な事を!
「ああ。その為にも、もっと頑張らないとな!」
と、私も頬を朱に染めて微笑んだ。戦いの道は険しいが、フィーネの為なら頑張れると思った。
〜漂流六日目〜
漂流してから、今日で六日目だ……昨日と一昨日はただ海を彷徨っているだけで何事もなかった。
それより……眩暈がする。朝も昼もわからない。限界だ……空腹の果てがこれか……
「……フィーネ、リバレス、私は限界のようだ」
私は船室のベッドで眠っていた。今朝から、体の調子が一気に崩れた。
「どうしたんですか!?ルナさん!」
その声も遠くに聞こえる。
「……実はルナ、ほとんど何も食べてないのよねー」
言わなくていい事を……
「ルナさん!あなたは食糧を持っていると!」
私の手を握り締めてフィーネが私の体を揺さぶる。
「心配いらない。今から一時的に身体の機能を停止させる」
と、私が言った瞬間だった。
「ダメよー!『停止』の神術は、今の体でやると仮死状態みたいになるのよー!」
『停止』は、対象の『時』を止める神術……自分にかけると精神力が無くなるまで『停止』できる。無くなれば死の危険があるが……
「街についたら、リバレス、停止を解除してくれ……堕天して人間と同じような生活をすると……不便だな」
堕天の辛さを噛み締めて……私が発した言葉はそこまでだった。
「ルナさーん!ルナさーん!」
フィーネが私に泣きながらすがりつくのを感じたのが最後の感覚だった。