「おいしくないですか!?」
少女は悲しそうに俯いた。
「いや、その逆だ。私はこんなに『美味い』物を食べたことはない!」
正直な感想だった。ESGのような瞬時の充足感は無いが、ESGには味はない。私はこの『美味い』感覚に酔いしれた。
「ほんとですか!?それは良かったです!でもちょっと塩を入れすぎたんですけどね」
少女は再び笑顔を取り戻して、私が食べる様子を嬉しそうに眺めている。
「(いいなールナ。わたしも食べてみたいなー!)」
リバレスは羨ましそうに私の意識に話しかけた。
「(お前はESGを摂れるからいいだろ?)」
そんなやりとりが続く中で私はあっという間に食べ終えた。食べるという行為がこんなに幸せだったのは生まれて初めての事だった。
「よっぽど、お腹空いてたんですね!お役に立てて良かったです!」
私が食べた食器を下げた少女は、再び私に話しかけた。さっきまでの私なら人間の女性を冷たくあしらうだろうが、今の私は美味い料理のお陰で若干ではあるが、この少女に感謝の気持ちが生まれていた。
「ああ、お陰様で力が戻ってきた気がするよ。ありがとう。ところで君の名は?」
私は感謝の辞を述べ、少女の名を聞いてみることにした。
「私はフィーネです。あなたは?」
少女の名はフィーネ。私はさっきまでよく見ていなかったが、彼女はとても優しい目をしていた。また、幼さ故か純粋さも顕れている。髪は栗色で背中まで真っ直ぐ伸びており、背は私よりも20cmばかり低いだろうか?この少女が私をここまで運ぶとは……人間も意外と力強いのかもしれないな。それはさておき、彼女は私の名も聞いている。果たして、本名を名乗っていいものだろうか?
「私は、ルナだ。ある辺境の地から世界を旅している。……でも私は倒れていてわからないんだが、ここはどこなんだ?」
私はルナリートの名は伏せておく事にした。無論、天使であることも。さらに倒れていたのを理由に、この地の説明を聞いてみた。
「ルナさんですかぁ。変わってるけどいい名前ですね。それにしても、あんな嵐の中で倒れるって……旅人って大変なんでしょうね。
ここは、世界の北西にある鉱山の村。『ミルド村』の私の家ですよ。……あっ!」
フィーネは急に思い出したかのように叫んだ。
「どうしたんだ?」
私は冷静に聞いてみた。
「お父さんが帰ってこないんです!鉱山から!……遅すぎるから私、様子を見に行かないと!最近魔物が多いから心配で心配で!」