「……うーん……やっぱり、ルナを助けるためとはいえ、光で信号を出すのはまずかったかしらねー?ルナは気を失ってるだけだし、わたしが一人でなんとかした方が良かったかもー」
リバレスは、さっきの光の柱を出した事に少しばかり後悔していた。もし、悪意を持った人間や『魔』が現れたら困りものだからだ。
「……まーいっか。わたしの力でも、人間ぐらいなら何とかできるしー……あっ!誰か来た!」
一人……人間の少女の姿が遠目に確認できた。距離にして500mぐらい向こうだろうか?少女はまだこちらに気付いていない。それもそのはずだ。リバレスは天使よりも若干能力は劣るが、それでも天翼獣。人間の数百倍の能力を持っている。この視界の悪さでは、向こうがこちらに気付くのにはまだしばらくの時間が必要だろう。
「……人間の女みたいねー……助けてくれるかしらー?」
さらに少女は近付いてきた。そろそろ、こちらが見えてくる頃だ。
「うーん、ルナは天使とはいっても、堕天のせいで見た目は人間の姿と変わらないからいいけどー……わたしの姿を見られるのはちょっとまずいわねー!」
そう一人で呟くと、彼女は一つの決断をした。
「そうだ、『変化』の神術を使えばいいんだわー!わたしって頭いいー!」
その言葉と共に、リバレスは私の指輪へと変化した。そして、彼女は私の右手薬指へとおさまった。
『変化』の神術。それは天翼獣のみが使う、様々なものに姿を変えられる神術だ。
「(これで、人間が来ても怪しまれないわー)」
こうして、私は行き倒れの姿で少女に発見されることとなる。そして、その時は訪れた。
「……あっ!大丈夫ですか!?」
右手には剣を、左手には松明を持ち、長い髪を雨風に乱れさせながら、コートを纏ったその少女は私の元へと近付いた。
「(この人間……剣を持ってるじゃないのー!?もし、ルナに危害を加えようとしたら許さないからねー!)」
そのリバレスの不安とは裏腹に、少女は剣を投げ捨てて私の体を抱き起こした。
「大丈夫ですか!?しっかりして下さい!」
少女は、私に向かって大声で叫んだ。しかし、意識の無い私が答えるはずもない。
「……大変!この人、意識がないし……それより、ひどい怪我!家に連れて帰って手当てしなきゃ!」
少女は私を気遣い、私の腕を肩に担ぎ懸命に家まで運ぼうとした。しかし、人間の女が男の私を運ぶのは容易な事ではない。不幸中の幸いなのが、天使といえども体重や姿は人間とさほど変わらないことだった。少女は重い足取りだが、渾身の力を込めて嵐の中をゆっくり……だが着実に進んでいく……